歪んだ月が愛しくて2
「責めなきゃいけないことしたっけ?」
思い当たらない。
寧ろ責められるべきは俺のはずだ。
白樺にとって俺は覇王に色目使って近付いたイケすかない奴だし、恋敵的な立ち位置だし、それに月のことだって…。
「月さんの、こと…」
ほらな。
「それはこの前も話しただろう」
「……本当のこと、聞いたの」
「本当のこと?」
「月さんが君にしたことも、尊様に怪我を負わせたことも…」
「あー…」
誰だ、余計なことを言った奴は。
頼稀?
アゲハ?
覇王?
ああ、ダメだ。
心当たりが多過ぎて分からねぇ。
「それなのに君は僕を責めなかった!噂に踊らされて、一方的に君のせいだと決め付けて責めた僕を!しかも、そんな僕のことまで助けてくれた…。さっきだって…」
「………」
「何で?ただ目が合っただけじゃん!自分が怪我してまで僕のこと助けて、それで君に何のメリットがあるんだよ!」
「メリット、ね…。確かにアンタを助けたところで俺には何のメリットもねぇよ」
「だったら何で…っ」
「メリットがないと助けちゃいけねぇの?そんな法律あったっけ?」
「………は、」
「アンタさ、色々と気にし過ぎなんだよ。責めるとか責めないとか、そんなのどうでもいいじゃん。この前のこともさっきも俺がやったことなんて大したことじゃないんだし」
「た、いしたことないって…」
「アンタが落ちて来たから手を伸ばしただけ。目の前に10円が落ちてたら拾うだろう。それと一緒だよ」
「………」
漸く顔を上げたかと思えば、白樺はぽかんとした表情で俺を見つめた。
唖然?呆然?
まあ、どっちでもいいか。
「てか、俺本当に大丈夫だから。保健室も1人で行けるしアンタは戻っていい…っ」
突然、白樺は早足で近付いて来たかと思えば俺の腕を引いて歩き出した。
「え、何っ!?」
白樺は何も言わない。
俺の腕を引いたまま早足で廊下を進み、一目散に保健室に入って行く。
バンッと、白樺は保健室のドアを乱暴に閉めて俺を真っ白なベットに座らせた。
室内に足を踏み入れた瞬間、鼻を掠めたのは薬品独特の嫌な臭い。
「、」
この臭いを嗅ぐと嫌でも思い出す、あの日の光景。
忌々しい真っ白なベッドに、まるで人形のように横たわる身体。
点滴に酸素マスク、身体に繋がれた数本のチューブ。
ピッピッ…と、小さなモニターから聞こえる電子音。
(だから、嫌だったんだ…)
ギュッと、固く目を瞑る。
脳裏に過ぎった忌々しい光景を振り払うように、小さく頭を振った。