歪んだ月が愛しくて2
尊Side
俺の肩に体重を乗せて泣き疲れて寝ている立夏の前髪をそっと壊れ物でも扱うかのように優しく触れる。
それに反応して少しだけ身じろぐ立夏に一瞬起こしてしまったかと思ったが、すぐに何事もなかったようにスヤスヤと寝息を立てるその姿に自然と笑みが零れた。
「……無防備な奴」
立夏の薄いピンク色の唇を親指でなぞる。
この唇に触れるのが自分だけであればいいのに。
そんな焦燥感に駆られながら立夏の唇に己の唇を重ね合わせた。
他の女とは比べ物にならないほどの甘く柔らかい口付けにじんわりと俺の心が満たされていく。
「立夏…」
こんな立夏を見たは二度目だ。
鏡ノ院のこと、そして義弟のこと。
今まで甘えることも他人に頼ることもして来なかったせいで、立夏の心はパンク寸前だった。
『それなのにいきなり俺だけが赤の他人だって言われて、凄く悲しくて…寂しくて…っ』
正直、目の前で泣かれた時は柄にもなく戸惑った。
泣かれたことに対してじゃない。ただその姿にどうしようもなく愛しさが込み上げて来て、自分にもそんな感情が備わっていたのかと戸惑ったのだ。
今日だけじゃない、この間もそうだ。
あの立夏が俺の前で弱さを曝け出し俺に向かって手を伸ばした。
例え俺を頼ったのが偶然だとしても、俺以外の誰でも良かったとしても、それでも今だけは“俺だから”頼ってくれたのだと淡い期待を抱かずにはいられなかった。
「勘違いしてんのは俺の方だな…」
コンコンと、室内にノック音が響く。
それと同時にゆっくりと扉が開いた。
「ちーっす」
「おや、お邪魔でしたか?」
そこには扉に寄り掛かる陽嗣と、その後ろから顔を覗かせる九澄の姿があった。
「……見て分かんねぇか?」
端っからいたくせに態とらしいんだよ。