歪んだ月が愛しくて2
「月さん、何で…」
背後から聞こえる白樺の声は微かに震えていた。
「電話で、泣きながら言ってたじゃないですか…。藤岡にちゃんと謝りたいって、だから僕は…」
「あー…それね、嘘だから。この僕がこんなブスに謝るわけないじゃん」
「、」
「それに新歓のことだって別に僕は悪くないもん。このブスが覇王様に選ばれたって図々しくも勘違いしてるから身の程を教えてあげただけじゃないか。だから少しお灸を据えてやろうと思ったのに…。ああ、それとこれは白樺さんのためでもあるんだからね」
「僕の、ため…?」
「白樺さんもこのブスには散々泣かされたんでしょう?ドブスのくせにただ毛色が珍しいからって陽嗣様に可愛がられるなんて許せないよね」
「それは…っ」
そう言い掛けて白樺はグッと歯を食いしばり、ペットボトルを持ったまま胸の前で両手を固く結んだ。
その表情は今にも泣きそうで、悔しそうで、でも色々な感情を押し殺そうとしていた。
……それでいい。
今余計なことを言って月を逆上させたら全てが水の泡だ。
もう少し。
後、もう少しだけ…。
「それ、ちゃーんと飲んでくれたんだ」
そう言って月が指を差したのは、先程白樺に預けたペットボトルだった。
一度だけ口を付けたから中身は3/4くらい残っていた。
そのペットボトルを白樺が大事そうに両手で抱えていたのが見えた。
「それが何だって…、」
瞬間、ガクッとバランスを崩した。
膝が笑って足に力が入らない。
咄嗟に近くにあったカビ臭い跳び箱にしがみ付いて身体を支えたものの、その腕も痺れたように感覚がなくなり僅かに震えていた。
床がタイルのせいで容赦無く打ち付けた膝が悲鳴を上げた。
「ああ、やっと効いて来たんだ」
「お、まえ…」
床に膝を付いたまま月を見上げると、月は悪戯が成功した子供のように無邪気に笑っていた。
心なし自分の声が弱まったことに内心愕然とした。
(まさか、ここまでとは…)
それから足元や手を見下ろして、自分自身の身体の変調に今更ながらに気付いた。
何かが可笑しかった。
なにかが…、