歪んだ月が愛しくて2



ガチャ、ガチャッ。

鎖が擦り合う、耳障りな金属音。



いくら抵抗しても男達には何の効果もなかった。
ただ男達の愉悦と加虐心を煽るだけ。
抵抗すればするほど月を思う壺だと言うことは分かっているが、だからと言ってこのままマグロのようにヤられるの待ってるだけなんて出来るわけがなかった。異性とも経験がないのに初めてを同性となんて…。いや、そんなことよりもこのまま月の思い通りになることが死ぬほど嫌だった。
でも薬と手錠のせいで自由が効かない身体を奮い立たせるには相当な体力と気力が必要みたいで、今は朦朧とする頭で男達の手から身を捩ることで精一杯だった。反撃なんてとてもじゃないけど今の状態では出来ない。



そう、今の状態では。



そんな時、男の1人が俺の口元を乱暴に掴んで唇に齧り付いて来た。
キスなんてそんなロマンチックのような代物ではない。ただ興奮のあまりむしゃぶりついて来たって感じのものに近い。
それでも俺の口内に侵入して好き勝手に動き回ろうとするものだから思いっきり噛み付いてやった。一切の手加減もしなかったため男の舌から血が垂れ流れ、俺に対する怒りから頬を一発殴られた。
その衝撃で俺の頭が壁にぶつかり、身体に纏わり付く無数の手が一旦離れた。



「テメッ、この野郎…!?」

「待てよ。まだテストだって言っただろう。それは本番に取っとけよ」

「あーあ、可哀想に。口から血出てんじゃん」

「お前、どんだけマジで殴ってんだよ」



ペッと、口内に溜まった汚い血と唾液を床に吐き出す。
男の怒りがそのまま拳に乗って結構な力で殴られたお陰で、朦朧としていた思考が少しだけスッキリした。
自由になった右手で頭を押さえながら思考を整理していると、何を思ったのか月は勝ち誇った顔をして高笑いし出した。



「あははっ、神様はちゃんと見てるんだよ」



―――神様。



その単語に、身体中の熱が一気に冷めていくのを感じた。



「お前さえ生徒会に入らなければ、お前が僕をコケにしなければ、お前が僕の目の前に現れなければ少しは運命ってものが変わってたかもしれないね。だからこうなったのはぜーんぶお前のせい。全部お前が悪いんだよ」



(……運命って、何だ)



そんな目に見えないものに踊らされて、人生なんて変えられるわけがない。



現に、何も変わらなかった。

どんなに手を伸ばしても、どんなに助けを求めても、誰も俺のことなんか見向きもしなかった。



「消えろよ、僕の目の前から」



誰も―――。



「二度と現れない、よう、に…、」



愉快そうに鼻で笑う月が、ハッと息を飲んだ。





空気が、一変した。





「神様、ね…」





月の言葉を嘲笑い、キツく閉めた蓋を抉じ開けた。



決して開けないように、胸の奥底に封じて来た“それ”を。





『…ごめん、シロ……』





何度も、何度も祈った。

微かな希望を抱く度に何度も、何度も。





『―――助けてよ!』





でもどんなに祈っても、俺の願いは聞き入れてもらえなかった。



何も、叶わなかった。





『          』





何を差し出しても叶えたかった願い。



どんな非情な手段を使ってでも叶えたかった願いは、無慈悲にも掌から溢れ落ちた。





「な、に、笑ってんだよ…」





余裕の仮面が少しずつ剥がれていく。
無様で滑稽な姿に、口元を歪めて妖艶に微笑んだ。





「何が可笑しいんだよっ!!」





何が可笑しいって、そんなの全部に決まってる。





「……祈って、みろよ」





身体の熱は冷めない。

でも月のくだらない挑発のお陰で思考がクリアになっていく。





「なん、だ…コイツ…」





男達の表情から血の気が引いていく。
その目は何か異色な物を見ているかのような嫌悪感に満ちていた。
すると月を守るように何人かの男達と村雨が俺の前に立ち塞がる。





ガチャ、ガチャッと。





彼等は漸く気付いた。

鎖に繋がれた獲物の狂気と、異常性に。





「本当に、そんなもんがいるなら、罰を受けるのは俺だけ、だろ。でも、もし神様とやらがいなければ…」

「…っ」





俺はアゲハと頼稀に嘘を吐いた。



ノープラン?



まさか。そんなわけないだろう。

鼠の狙いが俺である以上、奴等がこの機会を逃すはずがないのは分かっていた。



だから、俺もそれを利用させてもらった。















「地獄を見るのはテメー等だ」





この、絶好の機会を。


< 394 / 651 >

この作品をシェア

pagetop