歪んだ月が愛しくて2



陽嗣Side





この男は何かを隠している。

時々、そんな風に感じるんだ。





「尊、その情報は確かなんですか?」

「アイツが持って来たネタだ。間違いない」



体育祭の真っ最中、尊はりっちゃんと2人でどこかに消えたかと思えば、突然俺に電話を寄越して「今すぐ九澄と生徒会室に来い」と言いたいことだけ言って一方的に電話を切った。
何事かと思い急いで九澄と生徒会室に向かうと、そこには既に尊の姿があり、どう言うわけか学園中の防犯カメラ映像と睨めっこしていた。
どうやら体育祭のゴタゴタを利用してどっかのバカがまた侵入して来たらしい。
いくら体育祭の最中とは言えどうなってんだよ、うちの警備は。



しかも。



「しかし、よりによって恐極とは…」

「十中八苦、あの時の逆恨みだろうな」



アイツの情報によると、侵入者は恐極月とその金魚の糞。
目的は間違いなくりっちゃんへの報復だろう。



「僕のせいです。僕が、対処を誤ったから…」

「お前のせいじゃない」

「しかし」

「くどい。何度も言わせるな」



一切手を休めることなく、尊と九澄はパソコンとスマートフォンを交互に操作して恐極の行方とその対処法を練る。
その表情には明らかに焦りの色が浮かんでいた。



どいつもコイツもりっちゃんのことになると必死だね、面白いくらいに。



「九澄、王様の言う通りだぜ。今優先しなきゃなんねぇのはりっちゃんの安否だろう。そっちの方はクリアしてんのか?」



斯く言う俺も余裕なんてこれっぽっちもねぇけどな。

ま、癪だから死んでも隠し通すけど。



「立夏くんのスマホに仕込んだGPSは寮から動いていません。恐らく体育祭のため自室に置いて来たんでしょう」

「恐らくって、直接本人に電話すりゃいいだろう?」

「立夏くんには内密で処理したいんですよ」



その言葉に隠されているのは、罪悪感と後悔。
恐極の狙いがりっちゃん個人であっても、奴の侵入を許した時点で非があるのは俺達の方だ。
でも自己犠牲主義者のりっちゃんは多分……いや、絶対に俺達を責めることなく、自分のせいで俺達を巻き込んだと思うはず。
俺が白樺の感情を利用して親衛隊を焚き付けた時も、新歓の時も、恐極を捜しにどっかのバカが乗り込んで来てナイフ振り回してた時も、りっちゃんは一度たりとも誰かを責めることはしなかった。ただ1人、自分のこと以外は。
その姿が何とも痛々しくて、見ていられなくて。
だから尊も九澄もりっちゃんに知られることなく、恐極のことを片付けようとしていた。
もうこれ以上、俺達のせいでりっちゃんにあんな顔させたくないんだろうが。



「お優しいねぇ…」



俺だってあんな痛々しい顔されて何とも思わないわけじゃない。
でも俺の場合は罪悪感とか後悔とかそう言う類のものじゃない。
自分の汚さを思い知らされるようで、まざまざと俺とりっちゃんの違いを見せつけられているようで、時々無性にやるせない気持ちにさせられる。



俺は、尊や九澄とは違う。


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