歪んだ月が愛しくて2
「立夏くんを巻き込みたくないと思っているのは僕だけではないと思いますけど」
「まあ、王様の場合は…」
「違いますよ」
途端、俺の言葉は九澄によって遮られた。
九澄は手を動かしたままパソコンから視線をずらすと、俺の顔を見て意地悪い笑みを浮かべた。
「……何よ?」
「別に」
別にって。別にってなんだよ。
そう言う顔してないから聞いてんだよ。
笑ってる余裕なんかねぇくせに一々突っ掛かって来やがって。
「陽嗣、未空に連絡しろ」
そんな俺の思考を遮り、尊はテキパキと指示を出す。
(一番余裕ねぇのはコイツだよな…)
「立夏から目を離すな、とだけ言って置け」
「りょーかい」
未空のスマートフォンに電話を掛ける。
でもいつものことながら未空は中々電話に出ない。
常に持ち歩いてるくせにどんだけ鈍感なんだよ、あのアホ猿は。
『もっしもーし、何か用?』
「用がなかったら電話しねぇよ。てか、出んのが遅ぇんだよボケ」
『ボケてねぇよ。そっちこそ体育祭サボってどこで何してんだよ。もう騎馬戦終わってこれからリレーだぞ』
「生徒会室。尊と九澄も一緒だ」
『またサボって。リカのチューを賭けて勝負すんじゃなかったのかよ。まあ、俺としては1人でもライバルがいない方が有難いけど』
「あー…賭けね。そんな話もしてたな、忘れてたけど。てか、今はリレーどころの話じゃねぇんだよ。こっちはこっちで今面倒なことになってて…」
『面倒なこと?何?』
「それよりお前、今りっちゃんと一緒だよな。りっちゃんから目はな、」
『え、リカなら一緒じゃないけど』
一瞬、未空の言葉が理解出来なかった。
「………は、」
りっちゃんと、一緒じゃない?
「な、で…」
『さっきの騎馬戦でリカが怪我したっぽくて、それで今は白樺と一緒に保健室に行ってるよ』
「白樺と?」
それって、つまり。
「おい、どうした?」
「陽嗣?」
スマートフォンを耳に当てながら視線だけを横にずらすと、尊と九澄は俺の雰囲気で何かを察したらしく怪訝そうに眉を顰めた。
『ねぇ、リカがどうしたの?面倒なことって何だよ?』
電話越しに聞こえる暢気な声とは裏腹に、冷や汗と手の震えが止まらない。
「陽嗣!」
「まさか、立夏くんに何か…っ」
「……りっちゃんが、危ねぇ」