歪んだ月が愛しくて2
俺達3人は一斉に生徒会室を飛び出し、迷いなく廊下を駆け抜けて階段を下る。
正直、この時の俺達は冷静さを欠いていた。
本来だったら1人はりっちゃんを捜しに、1人は恐極の居場所を特定するために防犯カメラをチェックしながら俺達に指示を出したり、1人は本当にスマートフォンを置き忘れているだけなのか寮に確認しに行ったりと、それぞれにやるべきことがあった。
でも頭では分かっていても、自然と足が保健室へ向かって走り出していた。
俺達が暢気に恐極の行方を捜している間に、既に奴等がりっちゃんと接触していたら…、そう思うだけで柄にもなく怖くて怖くて堪らなくなった。
『俺、保健室見て来る!』
「りっちゃんが危ない」と漏らした俺の一言で、未空も俺達同様保健室に向かっていた。
不安は大きくなるばかりだった。
暫く走ると保健室が見えて来た。
そして保健室の前には呆然と立ち竦む未空がいた。
「未空っ!」
「みん、な…」
俺達に気付いた未空はすぐにこっちを見たが、その顔はどこか悔しそうで泣きそうだった。
「立夏は!?」
「い、ない…。リカも、白樺もどこにもいないんだよっ!」
「クソッ」
「一足遅かったようですね…」
既に保健室は蛻の殻だった。
りっちゃんや白樺どころか養護教諭すら見当たらない。
保健室にいないとなると、2人はどこに行ったんだ。
いや、この際白樺のことはどうでもいい。
ただりっちゃんのことはどうでもいいの一言で済ませるわけにはいかなかった。
「……濡れてる」
尊はベッドに近付くと、真っ白なシーツに触れて顔を近付けた。
「……この臭いは、緑茶か?」
「緑茶?」
「じゃあここに来た後に2人でどっかに行ったってこと⁉︎何で⁉︎」
「それが分かりゃ苦労しねぇよ!そもそも2人が一緒にいるかどうかも分からねぇのに!」
「未空、白樺くんに変わった様子はありませんでしたか?」
「変わった様子?別に、気にならなかったけど…。ただリカが怪我をしたのは騎馬から落ちそうになった白樺とアオを庇って一緒に倒れたからなんだ。それで白樺が自分からリカを保健室に連れて行くって言って…」
「成程、そう言うことでしたか」
「……嵌められたか」
白樺が、りっちゃんを嵌めた?
尊の言葉に何となく違和感を覚えた。
確かにこの状況から考えれば、白樺がりっちゃんを罠に嵌めたって図が真っ先に思い浮かぶ。
でも、何となく。
「恐極に続いて白樺くんまで…。2人は共犯と見るべきでしょうか?」
「え、恐極?アイツがどうしたの?」
「実は…―――」
『すいません!僕には、もう…貴方のお傍にいる資格はありません!』
あの白樺が、りっちゃんに何かするとは思えねぇんだよな。