歪んだ月が愛しくて2



真冬Side





「はっ、はぁ……は…っ」



中庭を駆け抜けてグラウンドに向かって足を動かす。



元々運動神経が良い方ではない僕。
だから自分の思うように走ることが出来ず、全然グラウンドに辿り着かなかった。



それでも走る。



走る。



走らなきゃいけない。



転んでも、呼吸が苦しくても、涙で前が見えなくなっても。



それでも走らなきゃいけない理由が、僕にはあった。















『藤岡くんに謝りたいから協力して欲しいんだ』





月さんに打ち明けられたことをそのまま藤岡に伝えると、藤岡は難しい顔をして僕を見つめた。
何も言わず、ただ眉を顰めて何やらとんでもないことを考えているように思えた。



そして、漸く口を動かしたかと思えば。



「アイツは俺に謝りたいわけじゃない。俺に、どうにかして復讐したいんだよ」



とんでもない。



「な、に言ってんの…?」



月さんが、藤岡に復讐?



何で?



意味が分からない。



確かに月さんは学園を追われたけど、元はと言えば月さんの行為がいき過ぎたせいでこんなことになってしまったんだ。
もし藤岡が言うように本当に復讐なんてことを考えてるとしたら、とんだお門違いじゃないか。



「これ、アンタが買ったの?」



そう言って藤岡が手にしたのは、先程手渡したばかりのお茶のペットボトルだった。



「そうだよ。君と話がしたくて、この時間なら保健室には誰もいないって聞いたから前もって用意してたんだよ」

「その話、月から聞いたんだろう。それとこのお茶も“ゆっくり話がしたいならお茶でも用意してあげれば…”なんて月から言われたんじゃねぇの?」

「う、うん…」

「しかも“この時期だから保健室の冷蔵庫に入れて置いた方がいいんじゃない”とも言われた。違う?」

「違わない、けど…、何で分かったの?」

「これ、口が空いてる」

「えっ、そ、そんなはずないよ!だってそれは体育祭が始まる前に購買で買ったものなんだから!」

「だから可笑しいんだよ」



藤岡はペットボトルの蓋を開けて飲み口に鼻を近付けた。



「流石に臭いまでは分からないか…。緑茶ってところが痛いな。まあ、でも口が空いてる時点で何か入ってるのは確実だけどな」

「りょ、緑茶だと臭いって分からないものなの?そもそもこれに何が入ってるって言うのさ?」

「緑茶は臭いが強いからな。カテキンに消臭効果があるのと一緒だよ」

「な、成程…?」

「(まあ、言っても分からねぇか…)ああ、それとこれに何が入ってるかって聞いてたけど、多分月がすり替えたんだと思うよ、薬入りのお茶に」

「く、薬っ!?」



すると藤岡は飲み口に口を付けて、躊躇なく中身の液体を胃に流し込んだ。
一口、二口と喉を通して、僕はそこで漸く彼の腕を押さえてやめさせた。



「ちょ、ちょっと!何してるのさ!?」

「何って飲んだだけだよ」

「見りゃ分かるよ!何でそんなことしたのか聞いてるの!?何が入ってるか分からないんでしょう!?もしそれで君に何かあったら…っ」

「俺がピンピンしてるとアンタには都合が悪いんだよ」

「都合が悪いって…、意味が分からないよ」

「時期に分かる。それにアンタにも理解し易いと思うし」



藤岡は鬱陶しそうに前髪を掻き上げた。



……分からない。


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