歪んだ月が愛しくて2
「明日はテストか…」
「今更?」
「テストが終わったら体育祭だね」
「体育祭?そんなのあるの?」
「あるよ。6月の下旬くらいに。今年は何に出ようかな〜」
「俺は何でもいいや。それよりも夏休みウェルカーム!」
「まだ6月にもなってないじゃん」
「そうだ!夏休みになったら皆で海に行こうよ!」
「聞いてないし…」
「海?」
「それいいじゃん!俺も海行きたい!」
「まあ、悪くないんじゃない」
「ねぇ、立夏くんも一緒に行こうよ!」
妙にハイテンションな葵が俺の腕にギュッと抱き付く。
「え、あー……そ、だね」
「何その煮え切らない感じ?」
「もしかして立夏くんって海嫌い?」
「マジで?勿体ねぇの」
「いや、別に嫌いじゃないんだけど…」
「けど?」
「………行ったこと、なくて」
「は?」
「ないって…、海に行ったことないの?」
「うん…」
すると3人は俺の言葉にあからさまな反応を見せた。
「り、立夏くん、本当に海行ったことないの!?」
「う、うん…」
だからそう言ってるじゃん。
「何で!?」
「何でって聞かれても行く機会がなかったって言うか…」
「人生損してるね」
「そこまで?」
まさかここまで驚かれるとは思わなかった。
確かにこの年で海に行ったことがないのはちょっと変なのかもしれないが行く機会がなかったって言うのは本当だ。
物心付いた頃には父さんと母さんは毎日仕事三昧で、兄ちゃんはそんな2人に代わって俺とカナの面倒と家事全般を補ってくれていた。
そんな兄ちゃんに対して「海に行きたい」なんてとてもじゃないけど言えなかった。
「じゃあ今年は皆で海に行こう!そこで沢山楽しい思い出を作ろうよ!」
「楽しい、思い出…」
『―――は?ゲームしたことないの?』
『ない』
『……持ってないとか?』
『ああ。初めて見た』
『は、初めてっ!?』
『耳元で煩ぇな。見たことねぇもんはねぇんだよ』
『じゃ、じゃあ一緒にやろうぜ!貸してやるからさ!』
『………』
『え、何で無視?』
『お前バカ?俺やったことねぇって言っただろう』
『だから一緒にやろうって言ってんじゃん!教えるからさ!他にもやったことないこととかやりたいことがあったら教えてよ!俺とお前が一緒なら絶対退屈しねぇから!』
『………嫌だ』
『玉砕!?』
「は、ははっ…」
葵の言葉で思い出した。
あの頃の大切な思い出が蘇る。
出来ることならもう一度あの頃に戻りたい。そして今度こそ大切な人達を守りたい。もう二度と誰も失わないように…。
「え、立夏くん?」
「り、立夏が壊れた…」
「……何急に笑ってんの?頭大丈夫?」
嫌な夢を見たせいで変な胸騒ぎがする。
でもそんな気持ちを掻き消すかのように皆が笑ってくれるから。
「皆で沢山思い出作ろうな!」
俺はまだここにいたいって思えるんだ。