歪んだ月が愛しくて2
「はっ、は…」
初めから、僕のためだったんだ。
何か入ってるかもしれないお茶を平気で飲んだのも、罠だと知っていてあえて倉庫に行ったのも、月さんを態と怒らせて標的を自分に向けさせたのも、全部、全部ぜんぶぜんぶっ、僕のせいじゃないか。
僕がもっと利口だったら。
僕がもっとちゃんと月さんのことを疑ってさえいれば。
僕が、もっと強かったら。
『アンタ、強いな』
強くないよ。
僕には藤岡のような強い心も、強い力も、何にもない。
何も持っていない。
ただこうやって誰かに助けを求めることしか出来ない。
―――弱虫。
ああ、本当にその通りだよ。
僕は弱い。弱過ぎる。
弱虫で、無力で、何も出来ない。
『何があっても、アンタのことは俺が守るから』
でも、助けたいんだ。
どんなことをしても、誰に縋ってでも。
こんな僕を命懸けで守ってくれた藤岡のことを、僕は絶対に助けたい。
『いいか。何があってもアンタだけは絶対に守る。約束する。だから俺が合図するまで余計なことはするな。絶対に俺の傍を離れるなよ』
絶対に諦めたくない。
『折を見てアンタだけは逃す。そしたらグラウンドにいる頼稀かアゲハにこのことを伝えてくれ』
だからお願い。
誰か。
『それ以外の連中には伝えるな。大事にはしたくない』
涙が止まらない。
壊れた玩具のように、勝手に涙が溢れ出る。
誰か。
誰もいいから…っ、
「誰か…、誰か助けてよぉおおおお‼︎」
必死に手を伸ばす。
目の前に差し掛かるグラウンドに向けて。
もう少し。
あともう少しで。
藤岡を助けにいけ―――、
「、」
グッと、後方に引き寄せられる自分の身体。
その力があまりにも強くて、咄嗟のことに足を止めて振り返った。
ぼやけた視界の中、僕が見たものは…。
「やっと、見つけたぞ」
目が眩むほどの神々しい光だった。
「白樺!リカは!?リカはどこにいんの!?」
涙が止まらない。
止まる気配すらない。
不安と焦りと、安堵から。
「おい、保健室の後どこ行ってたんだよ!?」
「白樺くん!急いでるんです!答えて下さい!」
鋭い視線と、悲痛な声が大切な彼の名前を必死で叫ぶ。
そんな彼等の気持ちが痛いほど胸に突き刺さる。
藤岡を想う気持ちが、痛いほど。
「………け、て…」
だから、僕は約束を破ってしまった。
「た、すけて」
僕の肩を掴む手に、今度は僕が逃さないように必死でその腕にしがみ付いた。
「藤岡を、助けて下さいっ!!」
彼等ならきっと藤岡を助けてくれる。
そう信じて疑わなかったのは、僕の肩を掴む尊様の瞳がまだ光を諦めていなかったからだ。