歪んだ月が愛しくて2
未空Side
「藤岡を、助けて下さいっ!!」
その悲痛な叫びに、俺達の心に芽生えていた白樺に対する疑心が一瞬で消え去った。
と同時に最悪なヴィジョンが脳裏に過ぎった。
白樺の叫び声に釣られて、少し離れたところにいた頼稀とアゲハが集まって来た。
頼稀達は尊と白樺の顔を交互に見て、何かを察したようにどこかに電話を掛けた。
通話口から聞こえて来た内容によると、どうやら学園の外に鼠捕りでも仕掛けているみたいだった。
俺が頼稀に電話してから動いたにしては対応が早い。
流石“B2”…、と言いたいところだけど早過ぎる。
多分俺が電話する前から何らかの情報を得ていて、予め鼠捕りを仕掛けていたんだと思う。
どっちにしても“B2”が外堀を埋めるなら俺達がやることは決まった。
「白樺、案内しろ!」
尊の剣幕に臆することなく、白樺は今走って来た道を引き返した。
白樺に案内されたのは西棟の倉庫だった。
一つしかない出入口には内側から鍵が掛かっていたけど、尊と頼稀が躊躇うことなくドアを蹴破った。
ドアが開いた瞬間、鼻を掠めたのは咽せ返るような血の臭い。
床に転がる、沢山の男達。
そして、目の前には―――。
「……リ、カ…」
誰のものか分からない血溜まりの中、禍々しい殺気を身に纏うリカの姿がそこにはあった。
まるで牙を剥く獰猛な獣のよう。
その左手はキツく手錠が嵌められ、もう片方の手錠には何故か格子のようなものがぶら下がっていた。
アゲハからプレゼントされた特注の団服は黒くて分かり難いけど誰のものか分からない血液が飛び散っていて、袖は通しているものの無惨にも引き裂かれていた。しかも上半身に巻いていたはずのサラシはどこにもなく、陶器のような真っ白な胸板を晒していた。
頭を鈍器で殴られたような、そんな衝撃。
目の前の光景が信じられなくて、目が渇くくらい何度も瞬きを繰り返す。
ど、して…。
何で、こんなことするんだよ。
誰がリカに、何で…っ。
「、」
「マ、ジかよ…」
俺以外の皆も一瞬息を飲み、あまりの光景に思わず足を止めた。
一瞬、リカの目が大きく見開かれた。
「み、尊様!助けて下さい…っ」
……は?
助けて?
リカの足元には床に転がる血塗れの男達の傍に尻餅を付いてナイフを握り締めたまま震えている恐極と、そんな恐極を庇うように立ち塞がる村雨がいた。
銀色の鈍い光を放つ“それ”を見た一瞬、急激に心が冷えていくのを感じた。
どうして?
何で?
何でリカが傷付けられなきゃいけないんだよ。
リカが何したって言うんだよ。
全身が沸騰したみたいに熱かった。
怒りで喉が震えて、上手く言葉が吐き出せない。
……ふざけんな。
マジで、ざけんなよっ!!
「―――離れろ」
聞いたことないような、冷たい声。
俺達の中で真っ先に正気に戻ったのは、尊だった。
尊は立夏の前に立ち塞がる村雨を蹴散らし、恐極の顔面を殴って吹っ飛ばした。
壁に激突した村雨と恐極は一発で気を失ったが、床に転がっていた男達の中にはまだ辛うじて意識がある奴もいて、尊は膝を付いて立ち上がろうとする男達を容赦無く沈めた。
そんな男達を我に返ったヨージと頼稀とアゲハが次々と拘束していく。