歪んだ月が愛しくて2
「未空、ナイフを離して下さい」
「何で?これがないと同じ目に合わせられないじゃん」
「オメーな…」
「何で止めるの?俺達ずっとそうやって生きて来たじゃん」
「、」
「邪魔者は排除する。歯向かう奴には相応の罰を与える。それが覇王でしょう。今更良い子ぶらないでよ」
「……そう、ですね」
その言葉にヨージは息を飲んだ。
一方、九ちゃんは苦し紛れに笑った。
「だったら邪魔しないで」
どうせ2人は「ダメ」とは言わない。
いや、言えない。
だって俺達は本当にそうやって生きて来たんだ。
リカが転入して来るまで、ずっと。
だから2人の返答を待つことなく、グッと右手に力を込めた。
恐極の喉に突き刺すように。
その息の根を止めるために。
「でも、僕達がそれを良しとしても立夏くんはどう思うでしょうね」
「、」
その言葉に、今度は俺が動けなくなった。
「貴方は自分の過去を立夏くんに打ち明けて、受け入れてくれたと思って満足しているかもしれない。でも間違ってはいけない。立夏くんが受け入れてくれたのは今の未空だと言うことを」
「………ぁ」
『昔のことなんてどうでもいい。俺が一緒にいるのは今の未空だ』
「今、未空が昔と同じようにその手を汚してしまったら、立夏くんは笑って受け止めてくれるでしょうか?」
『だから、引かないよ』
「僕には“自分のせい”で未空の手を汚したと、自分自身を責める立夏くんの姿が容易に想像出来ますよ」
「、」
『過去を背うのは大事だ。でも今更後悔したってもう遅い。過去に戻れるわけでもないし、なかったことにも出来ない。一度傷付けてしまったら、もう二度と元には戻らないんだから…』
「……そ、だね」
カンッと、俺の右手からナイフが落ちた。
それを拾い上げたヨージの手が俺の頭を乱暴に撫で回した。
チラッとヨージの顔を盗み見れば、どこか安心したような嬉しそうな顔をしていた。
(……分かってないのは、俺の方だった)
さっき自分で言ってたじゃないか、全部リカのためだって。
だったら俺がやることは恐極を殺すことじゃない。
今やらなきゃいけないのは―――。
ガッシャーン!!
ド派手な音に思考が遮られた。