歪んだ月が愛しくて2



「未空、ナイフを離して下さい」

「何で?これがないと同じ目に合わせられないじゃん」

「オメーな…」

「何で止めるの?俺達ずっとそうやって生きて来たじゃん」

「、」

「邪魔者は排除する。歯向かう奴には相応の罰を与える。それが覇王でしょう。今更良い子ぶらないでよ」

「……そう、ですね」



その言葉にヨージは息を飲んだ。

一方、九ちゃんは苦し紛れに笑った。



「だったら邪魔しないで」



どうせ2人は「ダメ」とは言わない。

いや、言えない。

だって俺達は本当にそうやって生きて来たんだ。

リカが転入して来るまで、ずっと。



だから2人の返答を待つことなく、グッと右手に力を込めた。



恐極の喉に突き刺すように。

その息の根を止めるために。



「でも、僕達がそれを良しとしても立夏くんはどう思うでしょうね」

「、」



その言葉に、今度は俺が動けなくなった。



「貴方は自分の過去を立夏くんに打ち明けて、受け入れてくれたと思って満足しているかもしれない。でも間違ってはいけない。立夏くんが受け入れてくれたのは今の未空だと言うことを」

「………ぁ」





『昔のことなんてどうでもいい。俺が一緒にいるのは今の未空だ』





「今、未空が昔と同じようにその手を汚してしまったら、立夏くんは笑って受け止めてくれるでしょうか?」





『だから、引かないよ』





「僕には“自分のせい”で未空の手を汚したと、自分自身を責める立夏くんの姿が容易に想像出来ますよ」

「、」





『過去を背うのは大事だ。でも今更後悔したってもう遅い。過去に戻れるわけでもないし、なかったことにも出来ない。一度傷付けてしまったら、もう二度と元には戻らないんだから…』





「……そ、だね」



カンッと、俺の右手からナイフが落ちた。
それを拾い上げたヨージの手が俺の頭を乱暴に撫で回した。
チラッとヨージの顔を盗み見れば、どこか安心したような嬉しそうな顔をしていた。



(……分かってないのは、俺の方だった)



さっき自分で言ってたじゃないか、全部リカのためだって。

だったら俺がやることは恐極を殺すことじゃない。



今やらなきゃいけないのは―――。










ガッシャーン!!



ド派手な音に思考が遮られた。


< 406 / 651 >

この作品をシェア

pagetop