歪んだ月が愛しくて2
そっと、俺の身体がベッドに沈む。
ぼんやりと目を開けると、俺の顔を覗き込む会長と目が合った。
「水は飲めるか?」
「…、ん」
重たい身体を起こそうとすれば、会長の手が背中を支えてくれた。
「あり、が…」
差し出されたペットボトルに触れた瞬間、思わずその手を引っ込めてしまった。
「立夏?」
「……これ、水?」
透明な液体。
誰が見ても水だと分かる代物。
しかし先程のこともあり疑心暗鬼に陥っていた俺はつい余計なことを口走っていた。
「ごめ、」
会長を疑うなんてどうかしている。
謝罪しようと思った時、会長は手に持っていたペットボトルの蓋を開けて、ゴクゴクと透明の液体を自身の喉に通した。
「これで飲めるか?」
「かい、ちょ…」
会長は俺の背中を支えながら水を飲むように促した。
初めは若干抵抗があったものの、それを会長に悟られるのが嫌でペットボトルの中の水を一気に飲み干した。
「……やっぱり、何か飲まされたんだな」
会長は俺の体調の変化に気付いていた。
自分でも情けないくらい身体が言うことを聞かないこの状況で、あの会長が気付かないわけがないとは思っていたが。
「原因は白樺が持っていた、あれか?」
「白樺の、せいじゃない。俺が、勝手に飲んだから」
「白樺に飲まされたんじゃないのか?」
「違うっ、俺が勝手に…、何か入ってるって分かった上で、お茶、飲んだんだよっ」
「………成程な」
その声には悲しみが宿っている気がした。
真意を測ろうと思い、会長の顔を覗き込もうとしたが、突然肩を掴み引き寄せられ会長の腕に抱き締められた。
いつもなら慌てて引き剥がすところだが、薬のせいで四肢に力が入らない。
布越しでも会長が強靭でしなやかな肉体の持ち主だと言うことが分かる。
そうでなければ男の身体を軽々と持ち上げられるはずがない。
温かい、安心感のある腕の中。
いつしか強ばった身体から力が抜け、俺は会長の胸に頭を寄せた。
「なに、が」
何が「成程」なのか分からず無意識に言葉にしていた。
「お前のそう言うところ、ほんと…」
不意にインターホンのチャイムが鳴った。
会長は「ちょっと待ってろ」と言ってベッドから立ち上がると、俺から離れて部屋を出て行った。