歪んだ月が愛しくて2
「な、に」
「……楽にしてやろうか?」
「……は、」
会長の言葉を理解する間もなく、唇を奪われた。
むしゃぶりつくような強引なキス。
勢いに押され身を捩ってしまうほど激しく、思わず逃れようとした頭を抱き寄せられ、角度を変えて深く口付けられる。
「…んっ、……は、ぁ…」
唇が唾液を溢してしまうほどに濡れている。
それを舐め啜った会長は飽きることなく、まるで飢えた獣のような激しさで俺の口腔を貪る。
キツく吸い上げられ麻痺した舌を更に痛いほどしゃぶられる。
こんな獣のようなキスは初めてでどうしていいのか分からない。
「…っ、何して、」
「苦しいんだろう?」
会長の手が、俺の顎を掴んでじっと見下ろす。
「だったら、俺を利用すればいい」
最初は何を言っているのか分からなかった。
でも次第にその意味を理解し、頭に血が上りそうになった。
「……ふざ、け」
「ふざけて野郎抱こうなんて言わねぇよ」
「ふざけんなっ、女いる奴が男抱こうなんて、」
「女?」
「っ、……いや、違う、そうじゃなくて…こんなこと間違って……ひぅっ!」
するりと、会長の手が服の隙間から脇腹を撫でる。
「や、め…」
触られただけなのに、ゾクゾクと背筋に震えが走る。
変な声が出そうになるのを必死で堪えるが、その手は段々と上に上がっていき、ついには両手をベッドに押さえ付けられた。
「余計なことは考えるな」
「、」
「お前は楽になることだけを考えればいい」
俺の左手を取って、手首に巻かれた包帯の上からそっと唇を落とす。
ああ、何て残酷な人だろう。
そんなこと言われたら拒めない。
会長には恋人がいるのに、迷惑だって分かっているのに拒絶出来ない。
「……なんで、」
「あ?」
頭ではこれがいけないことだって分かってる。
「なんで、そんな風に、優しくすんだよ…」
「………」
離れなくちゃいけない。
会長の優しさに甘えちゃいけない。
「そんなの、ダメなのにっ」
言うことを聞かない、自分の身体。
この手を振り解けない代わりに、会長の顔を視界に入れないように固く目を閉じた。
「誰が、ダメだと言った?」
髪に押し当てられた唇が、そんなことを呟いた。
「余計なことは考えんなって言っただろう。お前は何も考えずに俺に甘えればいい」
「…ぁ」
ちゅ、と。
首筋にキスが落とされる。
途端、びくりと跳ねた身体を強く抱き込まれた。
「それに、」
痛いくらい強い力で抑え込まれ、会長から逃れることは出来ないと悟る。
ああ、音がする。
理性と、必死で堰き止めていたものが一気に崩れていく。
「これだけは誰にも譲るつもりはねぇよ」
低く掠れた声が、朦朧とした脳にじんわりと浸透していく。
言葉に出来ない感情を誤魔化すように、会長の背中に腕を回した。