歪んだ月が愛しくて2
「……ん、…」
ゆっくりと覚醒していく意識の中、身体には気怠さだけが残っていた。
寝室のカーテンからは煌めく陽光が漏れ、透けて見える太陽の位置から既に結構な時間だと言うことが分かる。
それでもベッドから起き上がる気にはなれなかった。
肌に触れるシーツがサラサラで気持ちがいいからか、身体に掛かる毛布が羽のように軽くて心地良いからか、それとも―――。
「…、」
バッと、勢い良くベッドから上半身を起こした。
何の前振りもなく唐突に蘇る記憶が、意識を失う前の濃密な出来事を思い出させた。
思い出すと同時に激しい羞恥が蘇り、快感に押し流されてしまったことへの後悔が込み上げて来た。
「ど、しよ…」
大変なことをしてしまった。
昨日のことを思い出せば思い出すほど、サーッと血の気が引いていく。
会長の意図はどうであれ、決してあんなことをするべきじゃなかった。
いくら薬のせいで頭が朦朧としていたとしても、同性である会長にあんな…、しかも彼女がいる人にあんなことさせるなんて最低だ。
会長に申し訳なさ過ぎる。
でも面と向かって謝れる気がしない。
謝罪したくないのではなく、会長に合わせる顔がないのだ。少なくとも今は。
兎に角、今は早くここを出よう。
幸い、昨日のような四肢の痺れやその他の身体への異常はなさそうだ。
微かに喉に違和感を覚えたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
逃げるなら今がチャンスだ。
気怠い身体を叱咤してベッドから起き上がり、寝室のドアを内側からそっと開ける。
案の定、リビングには誰もいなかった。
人の気配が感じられないことから、会長が留守なのは間違いないだろう。
そうは言ってものんびりとはしていられない。
袖を通した覚えのないダークブルーのパジャマを脱ぎ、ハンガーに掛けられた真新しい制服を少しの間拝借することにした。
着替えてる最中、ベッドの下に散らかっている昨日の衣服やシーツが嫌でも目に付いてしまう。
「……最悪」
脳裏に過った光景を掻き消すように、グシャグシャと髪を掻き乱した。