歪んだ月が愛しくて2
尊Side
あの女はまるで一部始終を見ていたかのように、絶妙なタイミングで部屋に入って来た。
その手には真新しいバスタオルと衣服、そして救急箱のようなものを抱えており、誰のために用意したものかすぐに分かった。
「彼はどんなご様子で?」
「……聞かなくても分かってんだろう」
体育祭の最中、人目を避けて接触して来たこの女は「貴方付きとして派遣されたからまた仲良くやりましょう」と言った。
だがそれが建前なのは分かっていた。
神代の人間には1人につき少なくとも3人以上の護衛が常時付いている。
公式な護衛は勿論のこと、表立っては行えない情報収集や秘密裏の任務をこなして来た、王の駒と言うべき存在。
元はこの女も俺の護衛の1人であったが、あの一件が露見して以来お袋付きの護衛となり丸く収まったと言うのに、どう言うわけか元鞘に戻したい奴がいるらしい。
(ここにはアイツもいるってのに…)
それがこの女の意思だろうとそうじゃなかろうと、あの狸共が裏で一枚噛んでるのは一目瞭然だった。
そんな女は今の立夏の状況をある程度把握していた。
だから用意周到に服や救急箱まで準備して、あえてこのタイミングで部屋にやって来たんだろう。
つまり狸共が企んでることに、少なくても立夏は無関係じゃないと言うことになる。
この女を通して俺もしくは立夏を見張っていると考えるべきだが、だとしたら目的は一体…―――。
「ちょっと、あたしはエスパーじゃないのよ。貴方の口から詳細な説明がないと対処の仕様がないじゃない。まあ、大方どっかのおバカさんに薬を盛られて襲われそうになったってところかしら?」
「……自分から飲んだんだとよ。中身が違うと分かった上でな」
「は?何それ?貴方の子猫ちゃんってドMなの?」
ギロッと睨み付ければ、女は「冗談よ」と言って苦笑した。