歪んだ月が愛しくて2



「でも何で自分から飲んだのかしら?もしかしてそっちの趣味が…「それ以上喋ったら殺すぞ」



立夏が何か入ってると分かった上で自らペットボトルに口を付けた理由は大凡見当が付く。
人目も憚らず泣きながら助けを求めて来た白樺と、そんな白樺を庇うような立夏の言動。大方、立夏の悪い癖がまた発動したんだろう。
他人のためにどうしてそこまで自分を蔑ろに出来るのか俺には理解出来ないが、それが立夏の性分だから俺が何を言ったところで根本的な部分が変わることはないだろう。
だからいつもは小言程度で済ませてやっていた。だが今回の一件は目に余る。見過ごすわけにはいかない。



「この程度の冗談も通じないみたいね。つまんない男」

「お前に構ってる暇はない。それ置いたらとっとと出て行け」

「つれないのね。あの薬の対処法は知ってるのかしら?」

「薬が抜けるまで堪えるしかねぇだろう、媚薬なんだから」

「あら、もう一つ方法があるわよ」

「……いい」

「いいって何よ?彼が満足するまで抱いてあげればいいじゃない。そうすれば彼も早く楽に…」

「その選択肢を選ぶつもりはない」

「ちょ、ちょっと待ってよ!彼って貴方のお気に入りなのよね?他人に興味のない貴方が引き止めちゃうくらい傍に置いておきたい大切な子なのよね?」

「だったら?」

「今も寝室にいるのよね?」

「ああ」

「それなのに抱かないって選択肢があるの?ハッ、もしかしてその若さでE…「違ぇよ」



この女が相手だとどうも調子が狂う。
ガキの頃からの付き合いのため互いに扱い方を理解していた。
一緒にいて楽な存在ではあるが面倒臭い奴であることに変わりない。
そんな女に本心を語ったところでどうしようもないが、変に誤魔化したところで大人しく帰ってくれるとは思えない。この女は昔からそう言う奴だった。



「じゃあ何で抱かないのよ?」

「アイツが可愛くて綺麗でエロくて理性がぶっ飛びそうなのは認めるが、生憎そんな風に手に入れたいわけじゃねぇんだよ」

「あ、あの坊ちゃんが、デ、デ、デレたっ!?ドハマりし過ぎでしょう!てかキモ!急にキャラ変しないでよね気持ち悪い!」



マジでぶっ殺すぞ、このアマ。



この女はガキの頃からいつもこんな調子で、俺に意見出来る数少ない人間の1人だった。
神代の人間であるはずの俺にも不躾な態度を崩すことなく、唯一忠実な姿勢を示すのは爺さんと親父とお袋にだけ。
多分、俺に姉がいたとしたらこんな感じなんだろうが………いや、それはそれで色々と面倒臭ぇな。



「まあ、冗談はこれくらいにして、彼の薬を抜く方法ね。貴方が今の彼を抱きたくないのは分かったわ。でもね、貴方が傍にいるだけじゃ彼は楽にならないの。彼を苦しみから救いたいのであれば貴方に出来ることは一つだわ」

「………」

「それが出来ないなら他の人に代わってあげれば?彼を可愛がりたい人間は腐るほどいるみたいじゃない」



「また来るわ」と言って、女は部屋を出て行った。
女が言うように本心では立夏の熱が抜けるまで抱き潰してしまいたいところだが、実際はそんな簡単な話じゃない。
今ここで立夏に手を出したら、俺もあの男達と何ら変わらないことになる。
それに立夏が本気で嫌がることはしたくない。
だがそれ以上に立夏を自分のものにしたいと言う欲求もあった。
そんな葛藤の中、人の気も知らないで好き勝手言われて腹が立たないわけがないが、それ以上に物申したいことが一つだけある。



「誰が代わってやるかよ…」



そう声に出した時点で、俺の答えは決まっていた。


< 421 / 651 >

この作品をシェア

pagetop