歪んだ月が愛しくて2



翌日、九澄からの電話で叩き起こされた時には、既に登校時間を大幅に過ぎていた。
「すぐに来て下さい」と有無を言わさぬ口調に仕方なく起き上がろうとした時、隣で気持ち良さそうに寝息を立てる立夏の姿が目に留まり思わず口元が緩んだ。



(無防備な奴…)



その姿は昨日の立夏からは想像も出来ないほど穏やかに見えた。

血に飢えた獰猛な獣のようなオーラでも、熱に浮かされたトロンとした表情でもない。



昨日の立夏は本当に辛そうで、どうにかして熱を解放してやりたいと思った。
あんな状態であっても決して他人に助けを求めない、立夏のことを。
それと同時に隠していたはずの欲情を激しく駆り立てられた。
立夏の甘い声を聞く度にもっと自分の手で鳴かせたくなり、縋り付くように抱き付いて来る姿に愛しさが込み上げた。
しかも大きな瞳に涙を浮かべて拒絶されたかと思えば、俺に触られるのは嫌じゃないと期待させるようなことを言うから何度も箍が外れそうになった。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、俺じゃなかったら確実に食われていただろう。
そのくらい昨日の立夏はヤバかった。



「ハマり過ぎ、か…」



昨日の立夏の様子からして倉庫にいた男達に無理矢理犯されたってことはないだろう。
俺等が倉庫に駆け付けた時、立夏は団服の下のサラシを付けていなかったが下はベルトまできちんとされていた。
立夏の言葉をそのまま受け取るなら「上半身は触られたが下半身までは触られてない」ってところか。
何より昨日俺が触れた時の立夏の後ろの口は綺麗に固く閉ざされていた。性器も足も綺麗なもので、乱暴された痕のようなものはどこにもなかった。





『来て欲しく、なかった、のに…っ』





あれは男達に乱暴されたからではなく、他に理由があったってことか。



他の理由なんて一つしか思い浮かばない。
だが俺にとってはそんなことどうでも良かった。
立夏が誰であろうと、立夏がバカみたいに強かろうと、立夏が傷付けられる以上に気にすることなど何もないのだから。



隣で眠る立夏の髪をそっと撫でた後、渋々ベッドから降りて身支度を始めた。



















「おはようございます」



生徒会室のドアを開けると、真っ先に目に入ったのは無駄に爽やかさ全開の九澄の笑顔だった。



……しまった。



「昨日はよく眠れましたか?」

「くず、」

「そりゃよく眠れましたよね。もう10時ですもんね10時。こっちは昨日の後処理と立夏くんのことが気掛かりで碌に寝れなかったと言うのに、貴方は人の気も知らないで暢気に寝坊ですか?しかも昨日はあれから連絡も入れずに一体どこで何をしてたんでしょうね?」



九澄は有無を言わさぬマシンガントークで捲し立てる。
顔と言動が一致していない時の九澄は面倒臭い以上に手が付けられない。
相当鬱憤が溜まっていたのか、それとも極度の寝不足か。どちらにせよ、どうにかしてこれを通常運転に戻すべく、ソファーに座っている陽嗣と未空に視線を移したが…。



「ま、正論だわな」

「……自業自得」



逆に責めるような視線を返された。


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