歪んだ月が愛しくて2
「色々と気遣わせちゃってすいません」
「顔を上げて下さい。立夏様にそのような顔をして欲しくなくてやったことです。立夏様が気に病む必要はございません」
「哀さん…」
「それと……一昨日のことですが、ある程度はこちらで調べさせて頂きましたので恐極月が立夏様に何をしたのかは把握しております」
「文月さんも?」
「はい」
ですよね…。
哀さんが知ってたら当然文月さんも知ってるよね。
「ですが、詳細なところまでは存じておりません。出来れば立夏様の口から直接お話し頂いた後に奴等の処分を決定したいと思っております」
「別に疾しいことはないから何でも話せますけど、月の身柄は“B2”か覇王にあるんですよね?そうすると文月さんには手が出せないんじゃないですか?」
「仰る通りです。昨日、立夏様をお迎えに上がった後、主人のところに覇王から連絡が入りました。恐極月と恐極組の構成員、それと奴等の侵入を内部から手引きした三橋初の身柄を“B2”が預かっていること。そして見せしめのために覇王が三橋家に手を回すことを報告して来たそうです」
「そう、ですか…」
あの三橋先輩が協力者。
やけに恨みの篭った視線を送って来ると思ったらそう言うことか。
「報告によると恐極月はいつ事切れても可笑しくない状態のようですが、そう易々と楽にさせるつもりはございません。ですから恐極月の命が尽きる前に立夏様の口から真実をお話し頂きたいのです」
「真実も何も月が逆恨みから俺を陥れたかったんじゃないんですか?そのために白樺を利用して俺に薬入りのお茶を飲むように仕向けて、抵抗出来ないところを手下共に襲わせて、それをネタに俺を意のままに操りたかったんだと思いますよ」
実際、俺をどっかに売り飛ばす気満々だったしな。
「単刀直入にお伺い致しますが、奴等は立夏様に何を…」
「大丈夫ですよ。哀さんが直接手を下さなきゃいけないようなことはされてませんから」
「しかし立夏様はそのお茶を飲まれたのですよね?お身体の方は大丈夫ですか?」
「この通り、もう何ともありませんよ」
「それは何よりですが…、飲まれた後どのような症状が出ましたか?」
「あー…何か手足が痺れて身体が熱っぽかったような…」
「媚薬の一種ですね。あのお茶につきましては覇王が成分を鑑定に回していますが、十中八九間違いないでしょう。当然立夏様は口にする前からお気付きだったはずです。何故そのような無茶をされたのですか?」
「……別に。単なる気分ですよ」
「私の知っている立夏様は決してそのような理由では動きませんが」
「あれ、知りませんでした?俺って結構気分屋なんですよ」
これが苦しい言い訳だと言うことは自分でも分かってる。
でも哀さんの目を薬から逸らすにはこうするしかなかった。
俺が「単なる気分」と誤魔化した部分を詳細に語れば、文月さんや哀さんの矛先は間違いなくそちらに向くだろう。
でも俺から言わせてもらえば一番の被害者は白樺なんだ。
俺のせいで巻き込まれた挙句、あんな場面を見せてしまったんだから…。
本当はあんな芝居打たなくても白樺を守る方法はいくらでもあった。
でも俺はあえてそうせず、白樺に選ばせた。
酷なことをさせた自覚はある。
だからこそ、これ以上白樺のことを突いて欲しくなかった。