歪んだ月が愛しくて2
「忍足先生、立夏様の主治医を決めるのは主人です。貴方に決定権はございません。それと無関係な貴方に“そうせざるを得ない状況”を説明する義務はありません。貴方はまだ立夏様の主治医ではないのですから」
「自分で言うのも何だけど、俺って結構優秀だよ?今の内にキープしといた方がいいんじゃない?」
「優秀な方が自分から売り込んで来ますか?そもそも貴方を指名した覚えはありません。貴方の魂胆は何ですか?」
「嫌だな、魂胆だなんて人聞きの悪い。今日は偶々オフで、偶々近くの別荘にいたから俺が派遣されただけだよ」
「随分と貴方に都合の良い偶然が続いているようですが、一体誰の別荘にいらしたのでしょうね」
「さあ、誰だったっけな」
白衣の不審者こと忍足先生の第一印象は掴み所がない人だった。
飄々とした態度を崩さず、あの哀さんと渡り合えるほどの口頭術を持ち、尚且つ図太い。
これだけ不快感を表に出していると言うのに、本人はまるで気付いていないのか、将又気付いているくせに気付いていないふりをしているか知らないが、どちらにせよ一癖も二癖もある男だと言う印象を受けた。
「まあ、立夏くんが教えてくれないならしょーがない。“そうせざるを得ない状況”についてはまた今度聞かせてもらうね」
「嫌です」
「即答は傷付くな」
表情と言動が一致しない男。
ある意味器用な人間だと感心するが、目の前の白が邪魔をして男の本質が見えなかった。
「……哀さん、もういいですか」
ここに、いたくない。
この白を、この臭いを、まだ思い出したくないんだ。
「はい。お疲れ様でごさいました」
その言葉を合図に、俺は忍足先生に一礼してその場を去った。