歪んだ月が愛しくて2
「それにしてもよく覚えてたの、儂がチーズケーキを好んで食べることを」
「まあね。まもちゃんこそよく俺がフルーツ系のケーキが好きって覚えてたね」
「リリーのことなら何でも覚えてるぞ。例えば…」
それからまもちゃんと色々な話をした。
主に昔話と近況報告でまもちゃんにとってはあまり面白い話じゃなかったかもしれないが、俺にとっては過去を振り返る良い機会になったと思う。
それから俺が聖学に通っていることを話したら、何とまもちゃんの孫も聖学に通っていることが判明した。
俺より年上らしいから先輩の誰かだと思うが、会ったこともない人を詮索するのは気が引けたためそれ以上追及することはしなかった。会えたらラッキーくらいに考えておこう。
「ほお、体育祭か。懐かしいの。リリーは何の競技に出たんじゃ?」
「俺は借り物と騎馬戦に…、リレーも出るはずだったんだけど足怪我しちゃって出れなくてさ」
本当は月に邪魔されたせいだけど。
「そうか…、それは残念じゃったの」
「残念と言うか申し訳なくて…」
「申し訳ない?」
「だって、こんな俺をリレーに推薦してくれて応援までしてもらったのに、結果を残せなかったことがスゲー心残りでさ…」
「合わせる顔がないと?」
「うん…。俺、体育祭ってまともにやるの初めてで、面倒臭いって言いながらも本当は少し楽しみにしてたんだよね。だから応援団に誘われた時も本当は嫌じゃなかったし、競技が終わった後に皆が俺のところまで来てああだこうだ言うのも全然嫌じゃなくて、寧ろ……嬉しかったんだ。自分が参加してない競技に応援って形で参加することで一体感みたいなのが生まれて、何かその……皆の仲間に入れてもらえたみたいに思えて…、兎に角嬉しかったんだよ」
それなのに俺はその全てを裏切った。
嬉しい気持ちも、仲間に入れてもらえた感覚も、自分自身も。
「後悔してるのか?」
「……そう、かも」
『僕は嫌だよ!僕は、皆に…君のことを何も知らない人に、君を悪く言われたくないっ!』
「でも、守りたかった」
「ん?」
「だからリレーに出てたらもっと後悔してたと思う」
「………」
あの時、俺の判断は間違っていなかった。
白樺には酷なことをさせてしまったが、白樺の目を醒まさせるためにも、鼠を一網打尽にするためにも、関係のない人達を巻き込まないためにもああするのが一番良かったはずだ。
結果的にクラスの皆を裏切る形になってしまったが、彼等を裏切らなければ俺はもっと後悔していたと思う。
それこそ公平の二の舞にでもなっていたら、きっとあの程度の暴走では済まなかった。
枷が完全に外れて、我を忘れて手当たり次第に破壊を繰り返していたことだろう。
本当なら“B2”だって巻き込みたくはなかった。ましてや覇王なんて以ての外だ。
それなのによりによってあんな場面を見られることになるとは、カミサマって奴はとことん俺のことが嫌いらしい。
これが皆を裏切った代償なら甘んじて受けるべきなのかもしれないが…。
『……リ、カ…』
体育祭の一件をきっかけに覇王の俺を見る目は変わるだろう。
多分、陽嗣先輩辺りは何かしらのアクションを起こすはずだ。
陽嗣先輩は見た目によらず結構慎重派だし、仲間に危害を及ぼす可能性のある危険分子を放って置くはずがない。
何だかんだ言って陽嗣先輩が覇王の中で一番疑り深いからな。
それだけ仲間想いの人だから嫌いにはなれないけど。
さて、そんな人をどうやって丸め込もうか…。
一層のこと二重人格設定にしちゃうとか?
夢遊病設定でもいいか。
まあ、実際そんな感じだしそれで突き通してもいいけど、どうも気が乗らないんだよな。
嘘を吐くことに罪悪感を抱いているわけじゃない。
これは、多分…。
「それでいい」
「え、」
不意に大きな手が俺の頭に乗る。
「リリーは昔から頑固だから誰に何を言われても自分の意見は決して曲げんじゃろう。だったらリリーが思うように存分にやりなさい」
「………」
「後悔だけは、しないように…」
優しく微笑む、まもちゃん。
そんなまもちゃんが出会った時から大好きだった。
まもちゃんだけじゃない。
ひーくんも、レンちゃんも、田中さんも、あの家の人達はいつも俺を温かく迎えてくれた。
まるで本当の家族のように接してくれる彼等は、あの頃の俺にとってなくてはならない俺の一部だった。
『―――お前のためだ』
奴等とは、違う。