歪んだ月が愛しくて2
「……そんなにりっちゃんを俺達から遠ざけるってことは、やっぱりっちゃんには何かあんのかよ?」
そう切り出したのはヨージだった。
「あ?どう言う意味だ?」
ヨージの質問に理事長は険しい表情を見せ明らかに嫌悪感を露わにした。
「何でりっちゃんはあんなに強ぇんだよ?可笑しいだろう?普通の高校生が…、しかもあんなガリ勉みたいな格好してるりっちゃんが何で本職相手に勝てんだよ!?」
「………」
あえて口に出さないだけで、誰しもが抱いている疑問。
俺も、九ちゃんも、あの尊だって本当は気になって気になって仕方ないはずだ。
でもそれをあえて口に出さずに心の中に閉まっていたのは、何となく…、それはリカにとって禁句だと思ったからだ。
少なくとも俺はそう思うからそれについては詮索する気がなかった。
だって、リカはリカだもん。
喧嘩が強くても、どうしようもない恐怖を感じても、リカがリカであることには変わらない。
だからこの先リカについて色んなことを聞かされても、俺の気持ちが変わることはないと思う。
そう断言出来るくらい、俺のリカへの気持ちは確かなものだった。
「陽嗣、やめろ」
きっと、尊も…。
「はぁ?やめろって何だよ?お前は知りたくねぇのかよ!?」
「今すべき話じゃないと言ってるんだ」
「じゃあいつすんだよ!?りっちゃんがいない今、りっちゃんをよく知る奴に話を聞くのが一番じゃねぇか!」
「そんなに知りたければ本人に直接聞けばいい。他人から得た情報でアイツを判断するな」
「そんなのはぐらかされるのがオチに決まってんだろう!」
「落ち着いて下さい。貴方は何をそんなに焦ってるんですか?立夏くんは僕達の仲間ですよ。今更何を知りたいと言うのですか?」
「じゃあ逆に聞くけどよ、お前はどうなんだよ?りっちゃんが何であんなに強ぇのか気にならねぇのかよ?」
「気にならないわけないでしょう。でも今僕達がここにいるのは立夏くんの居場所を確認するためではありませんか。二兎追うものは何も得られません。貴方はこの状況で立夏くんの無事よりも、立夏くんの強さの秘密の方が知りたいと言うのですか?」
「っ、それは…」
ヨージは九ちゃんの言葉に強く言い返せない様子だった。
いくらヨージでもリカに対する負の感情を九ちゃんには知られたくないのかもしれない。
まあ、あの九ちゃんが気付いてないわけないと思うけど。
「……で、結局何が知りたいんだ?リツが喧嘩出来る理由か?」
「ハッ、出来るなんてレベルじゃねぇよ。ありゃ…」
「―――“化け物”」
「、」
「図星か…」
はぁ…と、深い溜息を吐く理事長にヨージは俯いて何も言えなかった。
「お前達ならアイツを変えられると思ったが、どうやらとんだ見込み違いだったようだな」
反対に理事長のヨージを見る目はとても冷たかった。
まるで汚物でも見ているかのように、その目ははっきりと拒絶を示していた。
「お前達は今度一切リツに関わるな。生徒会も辞めさせる」
「、」
「な、何で急にそんなこと言うのさ!?今までは、」
「急に?少なくとも御幸にとってはずっと気掛かりだったことだろう。良かったじゃねぇか、危険分子を早めに刈り取れて。これでテメー等の大好きな生徒会を守れるんだからな」
「そう言うつもりで言ったわけじゃ…」
「じゃあどう言うつもりだ?本職相手に勝っちまうリツが怖くて仕方ねぇんだろう?」
「、」
「待って下さい。今の陽嗣は冷静さに欠けています。理事長だって分かっているでしょう。それなのに今この場で立夏くんの新体を決めるのはあまりにも軽率です」
「それがどうした。さっきも言ったが、俺様はリツの保護者としてアイツを監督し保護する立場にある。その上でリツにとって生徒会が不必要なものだと判断したまでだ。こればっかりは“皇”が手出し出来る問題じゃねぇよ。リツを“化け物”扱いする連中にこれ以上リツを任せて置けねぇからな」
「そんなこと思ってないよ!リカはリカだもん!俺達の仲間だよ!」
「だがその考えに否定的な奴が1人でもいるなら俺様は躊躇なくお前達からリツを引き離す。出来ることなら目の届くところに置いておきたかったが転校もやむを得まい」
「そんな…っ」
何でこんなことになっちゃったんだよ。
俺達はただリカがどこにいるのか知りたかっただけなのに。
『未空、大好きだ!』
また、あの笑顔が見たかっただけなのに。
大好きだから一緒にいたい。
大切だからリカのことがもっと知りたい。
そう思うのはいけないことなの?
ヨージがリカのことを知りたいのは、リカのことが嫌いとか憎いとかそう言う感情からじゃない。
口が悪くて、女遊びが激しくて、何考えてるか分からないようにあえて見せてるけど、本当はこの中の誰よりも“仲間”を大切にしてる奴だって知っている。
例えそれで自分だけが悪役になったとしても、ヨージは俺達が隠した本心を見抜いて言葉にする。
やり方は褒められたものじゃないけど、それがヨージのやり方だった。
『アンタなんて生まれて来なければ良かったのよ!』
アイツとは、違う。