歪んだ月が愛しくて2
「てか、プレゼントって何の?」
「あ、それはもうすぐふみ…、友達の誕生日なんだ」
「ああ、誕プレって奴ね」
「じゃあその友達の誕生日って明日なんだ」
「ううん。誕生日は来週なんだけど、先にプレゼント買って置けば準備に時間が掛けられると思って。だから来週も外泊取らせてもらうね」
「それは構わないが、本当にこれから帰るのか?」
「うん。これからバスで帰るつもりだよ」
「……そうか」
「頼稀、やけに食い付いてるけど何かあんの?」
「いや、ただ最近東都が荒れてるようだから気になってな」
「荒れてる?」
「ただの噂だよ。伝説に肖りたい虫けらのね」
伝説?
虫けら?
「それってどう言う…」
「遊馬!何脅かすような言ってんだよ!藤岡くんと葵が変な顔してんだろう!」
「別に脅かしてるつもりはないよ。てか、変な顔とか失礼だから、汐の大好きな藤岡くんに」
「だ、だだ大好きなんて、別に俺は…っ」
「兎に角、帰るなら気を付けろよ。お前の実家は東都の双魚なんだからな」
「ありがとう、心配してくれて。立夏くんもごめんね。急にお願いしちゃって」
葵は申し訳なさそうに眉を下げる。
そんな顔しなくていいのに、折角の可愛い顔が台無しだ。
そっと、葵に手を伸ばす。
弾力のありそうな頬に触れて、むにっと優しく抓る。
「楽しんで来いよ」
デートとか彼氏とか、そんなことはどうでもいい。
ただ葵にとってその約束はとても大切なもので、どんなものにも代え難い代物なんだろう。
葵を見ていればそれがよく分かる。
そんな葵を否定する人間はここにはいない。
「実行委員会は俺とみっちゃんに任せて、葵は折角の休日を満喫しろよ」
「立夏くん…」
「そうそう。折角外泊許可が出たんだしさ」
「但し、ハメは外すなよ。ま、武藤ならどこぞの野生児と違ってそんな心配してないけど」
「野生児?誰のこと?」
「お前しかいないだろうが」
「さっきはああ言ったけど、あくまで噂だからあまり深く考えずに楽しんで来てね」
「絶対帰って来いよ!」
「エンジェルカムバーック!」
「お前は黙れ」
好き勝手言ってるようで実は温かみのある言葉に、葵の瞳に涙が滲む。
「みん、な…」
ズズッと鼻を啜る音に、葵が案外泣き虫であることを知る。
そんな葵の頬から手を離してポンッと肩に手を置いた。
「プレゼント、見つかるといいな」
「……うん!」