歪んだ月が愛しくて2



「そう…。それは、良かった…」

「アンタは立夏の何を心配してんだ?」



尊の問いにチサさんはハッとした様子を見せたが、次第に何かを思い出したかのように苦笑した。



「昔はそうじゃなかったんだけど、今のあの子は人と関わることを避けてる節があるからね…」



確かに転入当初はめちゃくちゃ避けられてたし、認めたくないけど多分嫌われてたと思う。
でも今は全然そんなことないし、リカも自分から生徒会をやるって言ってくれたから少しずつリカとの距離が縮まっていくのを感じていた。
ただ“昔はそうじゃない”って言うのは、どう言う意味なんだろう。
今のリカが人と関わるのを避けてるとしたら、昔のリカはその逆ってこと?
それはつまり昔のリカは人と関わるのが好きだったってことになるけど、んー……ちょっと想像出来ないかも。



「チサ」

「兄貴」



途端、理事長とカナちんの声が重なった。
それはまるで「これ以上余計なことを言うな」と言っているように聞こえた。



「……でも、リツが楽しく学校生活を送れているならそれでいいんだ。それ以上は何も望まないよ」

「………」



含みのある言葉に尊は眉を顰めてチサさんの動向を窺う。
そんなチサさんを制止した理事長とカナちんもまた俺達4人の反応を気にしているようだった。
まあ、そんなシリアスな雰囲気出されて気になんない方がどうかしてるけどね。



「それより、リツが怪我をしたって言うのは本当?」



チサさんの目が理事長を捉える。
理事長は観念した様子で深い溜息を吐いた。



「……それ、誰から聞いた?」

「俺しかいねぇだろう」

「チッ、余計なことを…」

「お前が変に隠し立てするからこうなったんだろう。自業自得だ」

「だからってよりによってチサにチクることねぇだろうが。コイツが異常に過保護なのはお前だって知ってんだろう」

「背に腹は代えられねぇんだよ。それにアンタの口を割らせるには兄貴を使うのが一番効果的だからな」

「大体、何でお前がリツのこと知ってんだよ?このことは限られた奴しか知らされてないってのに」

「にしか…、ルームメイトが教えてくれたんだよ。リツがそこにいる生徒会長に抱えられて学生棟に入って行ったってな」

「………」



ジトッとした視線が尊に向けられる。
多分、そのルームメイトが見たって場面は尊がリカを連れて倉庫を出た後のことだろう。
でもそれだけでリカが怪我したことには繋がらないと思うんだけどな。



「それで何でリツが怪我したことになんだよ?」

「は?お前何言ってんの?あのリツがお姫様抱っこなんて恥ずかしいことされて大人しく黙ってると思うか?」

「………思わねぇよ」



だよね。絶対させてくれないよね、普段なら。

リカって恥ずかしがり屋だし、あんな見た目で自分が男だって誇張するし、女扱いなんて以ての外だ。



「つまり怪我して動けないか、若しくは合意でない限りリツの場合は有り得ないってことだよ」

「まあ、後者だったら別の意味で有り得ねぇけどな」

「………」



カナちんの視線が尊から外れない。
これは予想以上に敵視されているな。
しかもカナちんの敵意は尊だけに向けられている。
そんなカナちんの視線に気付いているはずの尊は、まるでどうでもいいとばかりにカナちんの敵意を無視していた。



「文月くん、何があったのか全て話してくれるよね?」

「…、」


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