歪んだ月が愛しくて2
立夏Side
カラン、カラン。
「いらっしゃいませ」
ここに来るのは二度目だった。
あの時は深夜で柄の悪い客しかいなかったが、今は夕方のため一般人しか見当たらない。
どうやら喫茶店の時間帯は他の従業員も雇っているようだ。
「店内をご利用ですか?お持ち帰りですか?」
「店内で」
「ではお好きな席をご利用下さい」
そう言われて入り口から一番遠いカウンター席に座った。
俺がそこを選ぶと、店員は一瞬目を丸くさせたかと思えば慌てた様子でスタッフルームの中に姿を消した。
(ああ、やっぱりこの席は…)
店員の態度で確信した。
ここ“Lucky Dog”は昼夜問わずそっち関係の営業もしているらしい。
そして依頼者は入り口から一番遠いカウンター席に座り、特定の物を注文することで依頼者として認識される……とまあ、そんな感じだろう。
問題は何を注文するかだが、正直見当も付かなかった。
こんなことなら予め頼稀に確認して置けば良かったと頭を抱えていると、目の前に黒い液体の入ったグラスを差し出された。
「アイスコーヒーで良かったかな?」
声の主は顔を上げなくても分かる。
だって俺はこの人を待っていたのだから。
「頂きます」
出されたアイスコーヒーに口を付ける。
喉が渇いていたから丁度良い。
「久しぶりだね。また会えて嬉しいよ」
「俺もです、結城さん」
結城さんが俺の名前をあえて出さなかったのは俺を気遣ってくれてのことだろう。
それともう一つ、店内にいる“誰か”を警戒しているからだ。
この席に座ってから妙な視線を感じるとは思っていたが、やっぱり結城さんも気付いていたか。
流石あの頼稀が認めただけのことはある。
ただ妙な視線を送って来る人物に見覚えはなかった。
しかもただ見ているだけで敵視されている感じでもない。
何がしたいのか知らないが、そっちが何らかのアクションを起こしてくれなきゃこっちだって手の出しようがない。
(さて、どうしたものか…)