歪んだ月が愛しくて2



「それにしてもよく分かったね、うちのシステム。頼稀から聞いてたの?」

「ここに来て聞いとけば良かったって後悔しましたよ。でも前回座ったのがこの席だったし、この席に座った時の店員さんの反応が結構分かり易かったし、後は特定の物を注文すれば結城さんが出て来てくれるかなって」

「正解。やっぱり君は賢い子だね」

「学校の成績は下から数えた方が早いですけどね」

「そんなものは後でどうにでもなるさ。生きていく中で大切なのは物事を冷静に見極める判断力、五感を超越した直感力、そしてどんな状況下でも諦めない意地汚さだよ」

「……ただの当てずっぽうですよ」

「君のその当てずっぽうはそんじょそこらの高校生が身に付けられる代物じゃない。君の生い立ちが、経験が、過去が、君をそんな風に変えてしまったんだよ…。まあ、その話は一先ず置いといて今度からうちを利用する時はシステム無視しちゃっていいからね、面倒臭いでしょう」

「確かに面倒ですけど…、いいんですか?」

「いいんだよ、君は特別だから」



何が特別なのかは分からないが、一先ず指摘するのは後にしよう。
ここに来た目的を履き違えてはいけない。



「それで今日はどんなご依頼で?」



俺は後ろの人物に聞こえないように極力小声で話す。



「あの、まずは料金設定を…」

「ああ、いいのいいの。君から金取ろうなんてこれっぽっちも思ってないから。言っただろう、放って置けないって」

「まあ、それっぽいことなら…」

「そう言うこと」



手持ちが少ないから結城さんの提案は願ったり叶ったりだが、タダと言うわけにはいかない。
何かしらの報酬を払わなければ対等な関係を保つことは出来ないし、この関係も一回限りで終わらさなくてはならなくなる。
でも俺はこんなことで結城さんとの繋がりを切りたくはなかった。
その思いを熱弁すると、結城さんは少し困った様子でコースターの裏に何かを書き出した。
「登録したら処分してね」と渡されたコースターの裏には「050…」から始まる電話番号が記されていた。



「これ、結城さんの…?何で?」

「今回の報酬として君の連絡先を教えて欲しい…、とは言ってもこっちで簡単に調べられるからその許可を頂戴。その代わりに俺の連絡先も教えてあげる」

「構いませんけど、それって報酬になるんですか?寧ろ俺の方が得してる気がするんですけど」

「それは考え方次第だね」



結城さんの目が「これ以上は譲歩しない」と言っている。
何かしらの報酬とは言ったが、こんな俺に有利な報酬で本当にいいのだろうか。





「さあ、そろそろ教えて。君の欲しい情報(もの)は何?」





カウンターに頬杖を付きながら上目遣いで俺を見つめる、結城さん。



先程までの柔らかい雰囲気とはまるで違う。

目の前にいる彼は笑っているのに、嗤えていない。



ああ、これが彼の仕事モード。





「俺が知りたいのは“鬼”の幹部の素性、そして八重樫組の現状です」





そして、結城洸の本来の姿だった。


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