歪んだ月が愛しくて2
文月Side
体育祭の日、リツの身に何が起こったのか一から順に説明すると、案の定チサとカナは絶句した。
2人の反応は当然だった。
何たって自分達の大切な兄弟がヤクザに目付けられた挙句、未遂とは言え薬まで使われて襲われそうになったんだからな。
真っ当に生きてるチサとカナにとっては想像し難い世界だろう。
だからこそ言葉にならない2人の感情が手に取るように分かる。
チサとカナ同様にこの俺ですら“そっち側”には踏み込ませてもらえないのだから…。
覇王から報告を受けた時、心臓が凍った。
その瞬間、5年前のあの日の出来事がフラッシュバックして吐き気がした。
相手がヤクザとかどうとかより、兎に角リツの生死を確かめたくて覇王の前でみっともない姿を晒したことは記憶に新しい。
リツが無事だと分かった時は心底安堵したが、媚薬紛いなものを飲まされたと聞いて今度は違う意味で肝が冷えた。
リツの様子を探って来いと哀に命令すればリツの靴に仕込んだGPSの反応が神代の部屋から動かないととんでもない報告を受けたため、急遽リツを拉致して悠の別荘に軟禁したのが事の成り行きだ。
リツと神代の間に何があったのかは知らねぇし考えたくもないが、結果的にリツと覇王を引き離したのは正解だった。
きっと今のリツは精神的に不安定のはずだ。
実際にその現場を見たわけじゃないが、御幸の反応から察するに相当派手にやらかしたんだろう。
一般人ならまだしもそこそこ喧嘩慣れしてる覇王がこんなにもビビってるってことは言い訳の仕様がない場面を見られたと言うことになる。
神代とのことは一先ず置いといたとしても御幸からの詮索は避けられなかっただろうからな。
「何で、いつもリツだけがこんな目に…」
漸く絞り出したチサの声は弱々しく、そして悔しさを噛み締めていた。
「すまない」
チサもカナも、きっとあの日のことを思い出したはずだ。
本当は思い出させたくなかった。
出来ることならもう二度とあんなやるせない思いをさせたくなかった。
チサは兎も角、まだ小さかったカナにとってはかなりのトラウマになったはずだ。
だからカナに問い詰められた時も適当に誤魔化したのに、人の気も知らないでチサと一緒に乗り込んで来た時は本当に驚いた。
同時にそれほどまでに2人を追い詰めてしまったことを後悔した。
「どうして僕が文月くんにリツを任せたと思う?よりによって《《鏡ノ院》》の貴方に…」
「………」
「文月くんだからリツを任せたんだよ。文月くんなら奴等からリツを守ってくれると思ったから僕達はあのことだって目を瞑ったのに…。それなのに何でまたリツが傷付かなければいけないの?これ以上あの子を傷付けないためにここに入れたんじゃないの?」
「兄貴っ!」
カナに制止されハッと口元を押さえる、チサ。
その表情は怒りと後悔の混ざった複雑なものだった。
「……ごめん、言い過ぎた」
「いや、お前の言ってることは正しいよ」
初めからそう言う約束でリツを預かったのだ。
約束を破った俺にチサが怒りを露わにするのは当然だった。
「何、それ…」
しかし、チサは余計なことを言い過ぎた。
「“いつもこんな目に…”って何?理事長達は何からリカを守ろうとしてんの?」
よりによって覇王の前で。