歪んだ月が愛しくて2
「……僕達に遠慮することはないんだよ?」
『決めるのはリリーじゃよ。誰に遠慮することはない』
まもちゃんも似たようなことを言っていた。
でも言葉の意味も、重みも、全然違う。
「そ、そうだ!無理してこんなところにいる必要はねぇよ!リツにはこんな鳥籠みたいなところは似合わない!お前はもっと自由に…「違うよ」
カナの言葉を遮り目の前に座る覇王4人を見つめると、彼等も俺の目を見て次の言葉を待っていた。
そう見えただけかもしれない。
でも…、
「俺がここにいたいんだ」
不思議と、以前より迷いなく言い切れた。
まもちゃんと思わぬ再会を果たしたからか、若しくは目の前にいる覇王の影響か。
「遠慮なんてしてない。これは俺の我儘だよ」
初めは文月さんに強要されたものだった。
兄ちゃんの手前卒業だけはしないといけないと思っていたが、友達を作ったり部活に入ったりと言った青春はこれっぽっちも望んでいなかった。
寧ろ友達なんていらない、仲間なんて必要ないと思っていたくらいだ。
でも今は違う。
「必要ない」と虚勢を張っていたものは、俺にとってなくてはならない大切なものだった。
それは俺に「彼等の傍にいたい」と自覚させるのに十分な起爆剤となった。
だからもう遠慮なんてしない。
自分の気持ちを偽ることもしない。
彼等が俺を必要としてくれる限りここにいたい、と心底願ってしまったから。
(バカだよな…)
自分の正体が露見することを恐れているくせに。
正体がバレたらもうここにはいられないと言うのに。
「物分かりが悪くてごめんね」
ああ、本当にバカみたい。
「……そ、か」
力なく呟いた、兄ちゃん。
でも深く息を吐いた後、兄ちゃんは180度真逆な態度を見せた。
「でも彼等はリツのことを守ってくれるみたいだよ」
出た、兄ちゃんの得意技。爽やかスマイル。
悪意がない分、対処に困るんだよな。
「結構です。間に合ってますから」
「あ?間に合ってるってどう言う意味だ?他にアテがあるとでも言うのか?」
「まさかっ、リカってば浮気!?俺と言う恋人がいながら他の男に目移りしちゃったの!?」
「バーカ、りっちゃんみたいなモテる男はな恋人の1人や2人いて当然なんだよ」
「そもそも立夏くんはフリーですけどね」
「へぇ、リツはそんなにモテるんだ?兄として誇らしいよ。それに彼等の他にもリツを守ってくれる人がいるなんて是非とも紹介して欲しいな」
「……言葉の文だよ」
覇王4人の戯言は放って置くとして、案外すんなりと納得してくれた兄ちゃんに違和感を覚えたが、それよりも右隣にいるカナの様子が気になった。
「……どうしたのカナ?」
やっぱり、何か元気ないんだよな。
「………本当に、いいのか?」
「何が?」
「ここに残ることだよ。本当に辞めなくていいのか?今ならまだ間に合うし、今辞めれば丁度夏休み明けから…」
「カナは俺を追って聖学に来てくれたんだよね?」
「あ、ああ…」
「俺、カナと会えて本当はスゲー嬉しかったんだよ。だってカナと同じ学校に通えるなんて小4ぶりじゃん。あの頃みたいに手繋いで登校は出来ないけど、それでもまたあの頃みたいにカナと一緒にいられるから…。だから、もう少しだけ俺に付き合ってくれない?」
「リ、ツ…」
カナに「ね?」と首を傾げてお願いすれば、カナは顔を伏せたまま無言で頷いてくれた。
「……分かり易い奴」
「やっぱりカナの操縦はリツが一番上手だね」
「うわぁ、リカが小悪魔に見えるよ…」
「悪魔の間違いじゃねぇか?」
「その悪魔に心奪われちゃった奴はどこのどいつかな〜?」
「4/7ってところですかね」
誰が悪魔だ。失礼な。
まあ、カナの操縦が上手いのは自覚してるけど。