歪んだ月が愛しくて2
「ねぇ、本当にそれだけの理由でここまで来たの?電話で済む話なのに…」
「勿論。リツにもしものことがあったらあの人達に顔向け出来ないからね」
「だからって今日は平日なのに…、態々仕事休んだの?」
「大丈夫だよ、有給が沢山余ってたから」
「………ごめんなさい」
「リツが無事ならいいんだよ。でもあんまり無茶なことはしないでね、リツがここに残りたいと言うなら尚更ね」
「うん」
兄ちゃんと目を合わせずにそう答えると「嘘臭ぇ」と言わんばかりのシラけた視線がいくつも注がれた。
シャラップ。
「それと…、以前僕が書いた手紙は読んでくれた?」
「手紙?」
「食料と一緒に段ボールに入れて送ったんだけど」
「ダンボール………ぁ」
「思い出した?」
「ご、ごめん。色々と忙しくてまだ見てなくて…」
「いいよ、気にしないで。いつかは僕の口から話さなければいけないと思ってたから」
「……今日来た理由は、それ?」
「そっちはおまけ。リツの無事を確かめるのが最優先だからね」
きっとその言葉に嘘はない。
兄ちゃんは本当に優しい人だからこんな俺のことも心配してくれている。
だからかな、昔から兄ちゃんの目を見て話すことが苦手だった。
他人の俺なんかに笑顔で接してくれることが腹立たしくて、兄ちゃんに対して兄弟以上の気持ちを抱いていることが後ろめたくて。
「それで兄ちゃんが話したいことって何?」
「本当はこんな時に話すべきじゃないんだけど…」
「大袈裟だよ。ちょっと怪我しただけなんだから気にしなくていいよ、いつものことだし。それで何?」
「う、ん…」
一瞬、兄ちゃんの表情に暗い影が落ちた。
しかも兄ちゃんの横にいる文月さんも哀さんも、目の前に座る覇王も何故か眉を顰めたり俯いたりと微妙な顔をしていた。
あれ、俺何か変なこと言ったかな?
残るカナの反応を確かめようとした時、不意に右手を強い力で握られた。
「カナ…?」
「………」
カナは何も言わない。
でも俺の声に反応して握られた手に力が入っているのが分かる。
まるで何かに怯えているかのように真っ青な顔で俺を見つめていた。
「この間カナには話したんだけど、リツと文月くんにも報告したいことがあって…」
「報告?」
「俺様にもか?」
カナが既に兄ちゃんから話の内容を聞かされていると言うことは、顔色が悪い理由はそれか。
カナのこんな顔は初めて見た。
でもカナがここまで怯える話とは一体何だろうか。
しかも文月さんにも話さなきゃいけないことと言うのがどうも引っ掛かる。
でも次の瞬間、俺はカナの怯えている理由を知ることとなる。
「実は僕…、結婚しようと思ってるんだ」
衝撃的な言葉と共に。