歪んだ月が愛しくて2
それから暫くして未空が「腹減った」と根を上げたため、俺とカナと覇王4人で食堂に行くことになった。
「じゃあ僕もそろそろ帰ろうかな」
「チサ、お前には話があるから少し残れ」
「……何の話?」
「用があんのはチサだけだ。お前はお呼びじゃねぇよ」
「チッ」
「あ、お前、今舌打ちしやがったな。仮にもお前の保護者代理様だぞ俺様は」
「あくまで代理だろう。ここにちゃんとした保護者様がいるんだから今それ言う必要なくない?」
「チサが成人するまでは俺様が保護者だったことを忘れたのか?」
「忘れた」
「テッメー…」
「まあまあ、2人共そのくらいにして。リツも食堂に行くんでしょう?皆を待たせちゃダメだよ」
「はーい…」
「イイ子」
わしゃわしゃと、兄ちゃんの大きな手が俺の頭を撫で回す。
……相変わらずだな、この人は。
まあ、されるがままの俺も大概だけど。
「………」
「へぇ…、リカもチサさんの言うことはちゃんと聞くんだね」
「確かに珍しく素直じゃん」
「俺はいつも素直ですよ、失礼な」
「ふふっ、そう言うことにして置きましょうか」
……その含み笑い、謎過ぎる。
「じゃあまたね、チサさん」
「今度りっちゃんの家に遊びに行かせてもらうわ。そん時は宜しくね、おにーちゃん」
「あ、抜け駆けすんなよヨージ!リカの家に遊びに行くのは俺が先なんだからな!」
「まあまあ、皆で遊びに行けばいいじゃないですか。ねぇ、尊?」
「勝手にしろ」
「うちで良かったらいつでも遊びに来てね。歓迎するよ」
あの覇王がうちに?
兎小屋って言われたらぶん殴りそうだから遠慮願いたいわ。
「リツ」
理事長室を出る直前、兄ちゃんに呼び止められて振り返る。
「夏休みに入ったらリツとカナに彼女を紹介したいと思ってるんだけど、どこかで時間作ってもらえる?」
「……分かった。でも俺夏休みの課題終わらせてから家に帰るつもりだからすぐには帰らないよ。家に課題持ち込んだらサボっちゃいそうだし」
「分かった。その時は気を付けて帰って来てね」
「うん」
なーんて、本当は帰りたくないだけだけど。
不本意だけど、暫く文月さんの家に泊めてもらおうかな。
パタン。
「……本当に、あれで良かったのか?」
理事長室を出て中央棟の廊下を歩いている途中、不意にカナが小さく声を漏らした。
「何が?」
「兄貴の、結婚のこと…」
「あれのどこが悪いって言うの?」
「っ、でも、お前は昔からアイツのことが好きだったじゃねえか!それなのにあんな風に突き付けられてすんなりと納得して…、悔しいとか悲しいとかそんな感情はねぇのかよ!?」
「ないよ」
即答すると、カナはビクッと肩を揺らして驚いた。
「言っただろう祝福しようって。それが俺の答えだよ」
「、」
それだけ言って俺はカナに背を向けて歩き出す。
これ以上話すことはないと言う意思表示のつもりで。
するとカナの足音が俺達とは反対方向に走り出し、バンッと乱暴な音を立ててドアが閉まった。
カナの考えてることは何となく分かるけど、それでどうしてまた理事長室に逆戻りするのか理解出来ない。
(放って置けばいいのに、俺のことなんか…)
「あれ?カナちんまた理事長のところに行っちゃったの?」
「きっと忘れ物でもしたんだろうよ」
「彼も年頃の男の子ですからね、放って置きましょう」
「お前はいくつのおっさんだ」
てか、何皆の前で爆弾発言咬ましてくれてんだよ。
カナが大声で俺が兄ちゃんのこと大好きみたいなこと言ってくれちゃったからこの後が気まずいだろうが。
色々と突っ込まれたらブラコンかホモしか選択肢ないんだけど。