歪んだ月が愛しくて2



「ありがとう。僕のこと助けてくれて…」



この流れで“ごめん”じゃなくて“ありがとう”と言えるのは白樺くらいだろう。

そう言うところが嫌いじゃないんだよな。



「……忙しい奴だな、お前は」

「忙しい?」

「謝りたいのか礼を言いたいのか、どっちかにしろよ」

「ど、どっちもだよ。別にいいだろう、本心なんだから」



(本心、か…)



他人の気持ちが目に見えたらいいのに。
そうすれば心を開くことを怖いと思うこともなかった。
でも目に見えないからこそ言葉を交わすことは大切で尊いものなのかもしれない。
腹の探り合いなんていつまでも続けられるわけがない。
少なくても俺は本心しか興味ない。

でも昔の俺はそうじゃなかった。
アイツ等に出会う前の俺は本心も感情も表情も隠すのが得意だった。
得意だったと言うよりも、そうせざるを得なかったと言った方が正しい。
育ての両親を事故で亡くして以来、カナは俺を避けるようになって、兄ちゃんは余計に過保護になって、文月さんも鏡ノ院も俺を―――…ああ、クソ。この辺りの記憶が思い出せない。
思い出そうとするといつもの頭痛が襲って来る。
やっぱりこの辺りが“思い出したくない記憶”なんだろうか。



「それと、あのことも謝らせて欲しい」

「あのこと?」

「倉庫に君を残して助けを呼びに行った時、君は覇王様じゃなくて風魔くんや九條院様を呼びに行くように言ったでしょう。それなのに僕は君との約束を破って覇王様に…」

「ああ、そのことね」

「ねぇ、何で覇王様に言っちゃいけなかったの?この前は大事にしたくないからって言ってたけど、風魔くんや九條院様に助けてもらったって最終的には覇王様に知らされちゃうんじゃないのか?」

「何でそう思うの?」

「何でって、だって藤岡は生徒会の一員じゃないか。君に何かあったら風魔くんや九條院様が覇王様に報告するはずじゃ…」

「それはないよ。寧ろ覇王に知られたくないから頼稀達を呼ぶように頼んだんだよ。あの2人なら覇王にチクることは絶対にしないし、覇王に話が行く前に綺麗に証拠隠滅してくれると思ったからな」

「そう、だったのか…?でも何で覇王様に知られたくなかったの?」

「……それを答える前に、俺からも一つ質問していい?」

「な、何だよ改まって…」

「お前さ、さっきから普通に俺と話してるけど怖くないわけ?」

「怖い?」

「お前がいなくなった倉庫で俺が何してたか…、分かるだろう?」



そう言うと白樺はポカンとした間抜けな表情を見せた。



「………忘れてた」



バカだ。


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