歪んだ月が愛しくて2
「君に言われるまですっかり忘れてた…。やっぱり藤岡って喧嘩強いんだな、流石オタクヤンキー」
「本当バカ」
「バ、バカ!?」
「バカじゃねぇよ、稀に見る大バカだわ。何で今まで忘れてるかな。普通あんなショッキングなもん見せられたら嫌でも忘れられないってのに…」
「ああ、確かに以前のハゲとは比べ物にならないくらいメチャクチャにしてたよな」
「分析しろって言ってんじゃねぇよ」
バカなのか冷静なのか分からない。
あの場面を見せられてこんな反応されるとは夢にも思わなかった。
俺の予想を遥かに上回る思考回路に付いていくことが出来ず頭を抱える。
「確かにあの時は怖かったけど、今は怖くないよ」
白樺は迷いなく言い切った。
「君が言うようにあれは結構ショッキングな場面だったから男のくせに怖くて誰かに支えてもらわないと立っていられなかったよ。当然だよね、僕喧嘩出来ないし血も苦手だし。でも今は怖くない。それに君は僕を助けてくれたから…」
その目は怖いくらい真っ直ぐに俺を見つめていて、逆に俺の方が逸らしたくなったくらいだ。
「君を怖いって思っても嫌いにはなれないよ」
「、」
怖いと言う感情を認めた上で俺を嫌いじゃないと言える白樺は中々の大物だと思う。
普段は口煩い姑みたいな奴だけど、肝心なところで目を逸らさない真っ直ぐな奴で、俺なんかよりも勇気がある強い奴だった。
(こんな俺を嫌いになれないなんて、可哀想に…)
でも嬉しかった。
“化け物”の俺を怖いと認めた上で普通に接してくれることが。
怖くてもいい。
それでもこんな俺を受け入れてくれるなら…。
「質問は終わり?じゃあ次は僕の質問に答えてもらうよ。何で覇王様に知られたくなかったわけ?」
「……決まってんだろう。知られたくなかったからだよ、あんな“化け物”みたいな俺を」
もう何を言っても手遅れなことは分かっている。
見られたものは仕方ないし、後悔しても後の祭りだ。
でもなかったことにはならなくても、格好悪く足掻いてでも手を伸ばしていたかった。
例え太陽に近付き過ぎてこの身が焼かれようとも、光を浴びて影が浮き彫りになろうとも、眩いほどの太陽を求めずにはいられないから。
―――もう、覚悟は出来ている。
踏み込む覚悟も、それに伴う代償も。
「……それでも、僕は君に助けてもらった。本物の“化け物”ならそんなことしないよ」
「気分屋なだけかもよ」
「かもね。でも判断材料としてはそれだけで十分だよ」
「覇王親衛隊が聞いて呆れるな」
危険分子を放置して置くなんて危険過ぎる。
それも覇王のすぐ近くに。
『でも分からないからこそ、私は見定めなくてはなりません。尊様にとって、貴方がどのような存在なのか』
桂木先輩が相手なら一瞬で切り捨てられてるな、絶対に。