歪んだ月が愛しくて2
ガラッと、会議室のドアが開く。
その音に俺に向けられていた不快な視線が一斉にドアの方へと集中した。
それはみっちゃんも例外じゃなくて、みっちゃんが「あ…」と言葉を漏らすものだから俺もそれに釣られて振り返ろうとした瞬間、ポンと後ろから誰かに肩を叩かれた。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
この声は。
「九澄先輩!」
「昨日ぶりですね、立夏くん」
振り返ると、そこには九澄先輩がいた。
相変わらず爽やかな笑顔を振り撒いて、まあ清々しいこと。
てか、昨日ぶりどころの話じゃないだろう。休日以外ほぼ毎日会ってんだからさ。
「でも確か…、立夏くんのクラスの学級委員は御手洗くんと武藤くんだったはずでは?」
「あ、はい…。今日は葵に用事があって急遽俺が代役で出席することになったんです」
「成程、そう言うことでしたか」
「九澄先輩は何でここに?」
「僕はS組の学級委員長なので、それで仕方なく」
「仕方なく?」
「ここに来ると頭が痛くなるんですよ」
「え、大丈夫ですか?もしかして風邪引いたんじゃ…」
「立夏くんは優しいですね。何だか癒されます」
そう言って九澄先輩はよしよしと俺の頭を撫でた。
九澄先輩まで俺を子供扱いするなんて何だかやるせない。
「……俺に癒し効果なんてありませんよ」
「そんなことないですよ。立夏くんは生徒会のマスコット的存在ですからね」
「マスコット?」
え、俺ってぬいぐるみなの?
サンドバックか何かと勘違いしてるってこと?
「心配して下さってありがとうございます。でも僕なら大丈夫です。僕の頭痛の原因は風邪ではなくただの生理現象ですから」
「生理げ…っ」
九澄先輩と話していたら突然背後から抱き締められた。
その衝撃にバッと振り返ると、俺の目に飛び込んで来たのは誰かさんを連想させるような金色だった。
「これは夢か、それとも幻か…。ああ、夢なら醒めないでくれたまえ!」
……これさえなければ。
「何言ってんの、九條院先輩?」
「とうとうイカレたか」
頭が。
「Non!心配無用さ!僕は今、最高に幸せな気分を噛み締めているところだからね!」
「幸せ?」
アゲハの意味不明な言動にみっちゃんが律儀に対応する。
あーあ、そんなことしたら余計に付け上がらせるだけなのに。優しいなみっちゃんは。
「こんな楽園のようなところが学園に存在したとは、何故今まで気付かなかったのか。ふふっ、僕も堕ちたものだ」
そのままずっと堕ちてろ。
「はぁ…、頭が痛い」
「まさか、九澄先輩の頭痛の原因って…」
「そのまさかです」
犯人はお前かぁあああ!!
「ああ、僕の愛しのAngels!僕のことを待っていてくれたんだね!もう遠慮はいらないよ!さあ、僕の胸に思いっきり飛び込んで来たまえ!」
「誰が飛び込むかボケー!」
「ぐはっ!」