歪んだ月が愛しくて2
「しかも、まさかあのGDにも容赦なくお説教ぶちかますとかどんだけお人好しなんだよ」
「自分が狙われた理由を知りたかっただけです」
そう、間違いなく最初はそれだけだった。
「でも弟くんのこと言われて頭に血が上っちゃったんだ?」
「否定はしません。だからアイツ等のことを考えて言ったわけじゃないんです」
自分のためだった。
何も知らないくせにカナのことを悪く言われて、どうしようもなくムカついて、感情のままぶつけてやりたかった。
(俺も、人のこと言えないな…)
「でもよ、りっちゃんのお陰でGDの本当の在り方ってのが分かった気がするよ」
「え…」
「“覇王が道を踏み外した時に矯正してやるのが本来のGD”って言ってただろう。あれを聞いた時、何かこうすんなりと納得出来たんだよね」
「………」
初めて見たかもしれない陽嗣先輩の穏やかな表情に瞬きを早めた。
こんな顔も出来るんだ…と、何故か感心してしまった。
いつもそう言う顔していれば少しは……いや、大分チャラさが軽減されてイケメン度が増すことに本人は気付いているのだろうか。勿体ない。
「りっちゃんは、優しいのか残酷なのか分からねぇな…」
ポツリと漏らした言葉に責められている気分だ。
「飴と鞭の使い方が上手いのかと思えば飴しかやんねぇ奴もいて、しかもそれを無意識に出来ちゃうところが怖いって言うか…。本当油断ならねぇよりっちゃんは」
「………」
それは「信用出来ない」と言われているようだった。
……いや、間違いなく言われている。
今までの俺なら面と向かってそんなことを言われたら「どうでもいい」と言いつつも少なからずショックを受けていたと思うが、今は色々なものを見せてしまった後でどう言い訳しようかと考えていた矢先だったからある程は覚悟していた。
何かを犠牲にしないと得られないものがあるように、俺も彼等と一緒にいるためには何かを捨てなければならないのかもしれない。
みっともなく縋ってでも、どうしようなく手を伸ばしてでも、彼等の傍にいることを望んだのは紛れもない俺自身なんだから。
「……認めてくれなくてもいいです」
「ん?」
「俺のこと、信用してくれなくても構いません」
「………」
「ただ、これだけは約束します。俺は陽嗣先輩の大切なものを傷付けることは絶対にしません」
誰よりも疑り深く、誰よりも警戒心が強い。
でもそれは自分だけが悪者になってでも守りたいものがあるからだ。
「それだけは覚えて置いて下さい」
その気持ちは痛いほど分かる。
だから、これが今の俺に出来る精一杯の覚悟と誓い。
陽嗣先輩の本心を引き出すためには、俺も本心でぶつからなくちゃいけない。
「……期待してるよん」
意地悪く、戸惑わせるような口調でニヤリと笑う。
俺のことなんて粒ほどにも信用してないんだろう。
どこか高みの見物にも似た、そんな余裕がヒシヒシと肌に伝わる。
でも、覚悟は決まった。
もう後には引けない。
明確なタムリミットがあるけど、それまでは彼等と一緒にいることを諦めない。
その誓いを胸に刻み、俺は陽嗣先輩の後に続いて北棟に足を踏み入れた。