歪んだ月が愛しくて2



自分の行いを正す時が来たのは、りっちゃんが生徒会に入った後だった。
りっちゃんが転入して来る前からセフレとの関係は終わっていたが、それによってりっちゃんへの批判が集まり逆恨みする者が出始めた。
白樺に関しては俺が嗾けたようなものだからカウントしないにしても、恐極が男達を使ってりっちゃんを襲わせようとした時やそんな男達が恐極を捜して学園に乗り込んで来た時は流石の俺も肝が冷えたし、その上桂木にまで目を付けられるとは思ってもおらず自分の浅はかさを痛感させられた。



(尊がガチギレするのも無理ねぇな…)



それに加えて今回の騒動だ。
尊が俺を警戒するのは仕方ない。
それでも尊が「やめろ」と言わない限りは納得するまでやらせてもらう。
利用した手前これ以上突くのは気が引けるが、それでも俺には確かめなければいけないことがあった。



敵か、味方か。

有害か、無害か。



つまらねぇ俺の人生において、尊達との出会いは正に青天の霹靂だった。
それまで退屈だった日常が一変し、退屈とは程遠いものに塗り替えてくれた良くも悪くも強烈な存在。
そんな彼等の欠点は何だかんだ言ってお人好しなところ。
敵味方を見抜く能力がないとは言わない。寧ろ十分過ぎるくらい備わっていると思う。
しかし彼等は甘い。一度懐に入れた人間を簡単には見捨てることが出来ないのだ。本人達にその自覚がないのも頂けない。
だったら俺がやるしかない。
彼等が切れないのであれば俺が矢面に立ってりっちゃんを切り捨てる。
彼等には出来なくても、俺には出来る。
だから俺はりっちゃんを仲間とは認めない。
嫌いじゃないけど、好きと認めてはいけない。
認めてしまったら最後、流石の俺でも切るに切れねぇからな。



だから仕掛けさせてもらった。

りっちゃんの本性を探るのに一番効果がありそうなものを。



(悪く思わないでくれよ)



「僕からしたら君の方が何十倍も強いよ。自分から人質交換申し込んだり、僕を逃すために態とアイツ等を挑発したりするなんて僕には絶対出来ないもん」



ああ、強ぇよ。
りっちゃんは俺なんかよりも遥かに強い。
実際にりっちゃんが喧嘩してるところを見たことはねぇが、あの禍々しい殺気を目の当たりにしたら嫌でも思い知らされた。
りっちゃんの強さは別格だと。
アイツと同等の……いや、それ以上のものを感じた。



かつて1人だけいた。
“鬼”にいた頃、キョウと2人でバカみたいな大人数に喧嘩売って逆に返り討ちにされそうだった時、幸か不幸か俺は強烈なものと出会ってしまった。
出会ったと言っても一瞬だけ。たった数分の出会いが運命を交差し、強烈なインパクトと恐怖を残して去ってしまったが、あの出会いは俺の生涯で一生忘れられそうにない衝撃だった。





『―――起こしたのは、お前か』





本物は、今どうしてるだろうな。



ふと、我に返る。
りっちゃんのことを考えていたはずなのに、どうして彼のことを思い出してしまったのか。



同じ匂いがするとか?

いやいや、まさかな。

有り得ねぇよ。



「俺、お前のこと結構好きなんだよ」

「………へ?」

「だから、お前のこと好きだって言ったの」

「なっ!?」

「勿論、恋愛感情とかじゃないから安心しろよ。それにお前は俺のこと好きじゃないだろうけど、俺はお前とこうやって話しするの好きだから。だからどっちかって言うと“これからも俺の愚痴を聞く”って言うのが罰。でも流石に卑怯者はお断りだからちゃんと謝ってから出直して来いってこと」

「それは、僕がやってしまったことだから当然だけど…。そんなのが罰でいいのか?いや、そもそも僕だって君と話すのは好きだから全然罰じゃないんだけど」

「あ、そうなの?じゃあ俺達相思相愛じゃん」

「っ、きゅ、急に笑わないでくれる!心臓に悪いんだよ!」

「お前心臓悪かったの?大丈夫か?」

「あ、あのね…」



2人の声で思考が途切れる。



それでも脳裏には、あの日の彼の姿が鮮やかに残っていた。


< 502 / 651 >

この作品をシェア

pagetop