歪んだ月が愛しくて2



白樺と別れた後、俺はりっちゃんと2人で話がしたいと言って時間を稼いだ。

でも目的はそれだけじゃない。



「俺はよ、素性の分からない人間を手元に置くほど寛容じゃねぇんだわ」



牽制するため。

少しでもりっちゃんの本性を暴くため。



「言えよ。お前は誰だ?何のために聖学に来た?」



俺は自らの仮面を剥がすことを選択した。



「……先輩って、俺のこと嫌いですよね」

「嫌いじゃねぇよ」

「でも仲間とも思っていない。会長が言い出した手前話を合わせてるだけですよね?」

「りっちゃんこそ俺達のこと全然信用してないっしょ?なーんにも話してくれないもんね」

「……そう、かもしれません」

「お相子じゃん」



りっちゃんもバカじゃない。
俺の言葉の意味も、俺がりっちゃんを牽制する理由も、何となく察しが付いていることだろう。



(本当、嫌いじゃねぇのよ…)



察しが良いのも、警戒心が強いのも、自分のことよりも他人優先なところも嫌いになれないから困ってるんだ。
自分とはまるで違うりっちゃんの存在を疎ましく思っていた時期もあった。
その“違い”にアイツが惹かれていると勘違いして白樺を嗾けたこともあったが、今ではその“違い”が邪魔をしてりっちゃんを拒めなくなっていた。



認めてしまえたらどんなに楽か…。

でも認めてしまえばもう後戻りは出来ない。



だから―――、



「、」

「クッソ!」



それからすぐに手配通りものが現れた。
どう言う理由で焚き付けたか知らないが、俺の狙い通り奴等の攻撃はりっちゃんに集中した。



「クソッ、ナメやがって!」

「チョロチョロと逃げてんじゃねぇ!」

「じゃ、お言葉に甘えて」



んー…やっぱり強いな。
りっちゃんは動きに無駄がなく、手数も必要最低限に留めて的確に急所を外していた。
それが逆に凄い。普通は狙って出来ることじゃない。
これがりっちゃんの実力。
いや、まだまだ底知れないものを抱えているはずだ。

りっちゃんは今まで出会ったどんな人間よりも強い。
何より根底にある芯の強さは並大抵のものじゃない。
だからこそ簡単に自分を投げ打つことが許せなかった。
本来のりっちゃんは自分も含めて“全部”守れるくらいの強さを持っているはずだから。



今、それを証明することは出来ない。

歯痒さだけが残る。



(GDの兵隊じゃ役不足だったか…)



りっちゃんの強さを直で見たいがために手配した、駒。
アイツが選抜したからそれなりに出来る奴が来ると期待していたが、とんだ泥試合だったな。



「間違ったことをしたと思うなら誠意を見せろ。今のままじゃテメー等にGDを名乗る資格はねぇよ」



ま、お陰で面白いものが見れたけどな。



GDに説教するなんてりっちゃんくらいなものだ。
聖学にいる大抵の人間はGDを“欠陥品の掃き溜め”くらいにしか思っていない。
家柄も大したことなく、素行も悪く、秀でるものがない落ちこぼれ集団、それが今のGDの評価だった。
だから奴等は覇王に牙を剥く。
自分達がこんな目に遭っているのは覇王のせいだと信じて疑わない。
言い掛かりもいいところだ。
そんな連中は相手にするだけ時間の無駄だし、世間から見た奴等の印象が悪くなろうと知ったこっちゃない。



でも、りっちゃんは違った。





『GDってのは覇王のやり方が気に入らなくて作った組織じゃねぇのか?覇王が道を踏み外した時にぶん殴ってでも矯正してやるのが本来のGDじゃねぇのかよ?テメー等がやったことは本当にGDの正しい姿って言えるのか?』





自分のために本気で怒ってくれる存在がこの世界に何人いるだろうか。

「捨てる神あれば拾う神あり」って奴だな。

奴等にとってりっちゃんとの出会いは間違いなくターニングポイントのはず。

それに気付くか気付かないかで奴等の一生は大きく変わるだろうな。



(そんなつもりはなかったけどな…)


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