歪んだ月が愛しくて2

弟子入り志願




立夏Side





「リッ、カぁぁああああ!!!!」



第一声は悲鳴に近いものだった。



「もう今までどこ行ってたの!?リカが白樺とどっか行っちゃったから仕方なく教室でずっと待ってたんだよ!嫌いな勉強も頑張ったんだよ!それなのにヨージと密会してるなんて酷いよ!あんまりだよ!リカの浮気者ぉぉおお!!」

「ごめんごめん」

「ごめんじゃないよ!適当に流さないでよ!てか、面倒なのに捕まったって聞いたけど一体誰に捕まったのさ!?」



あれから陽嗣先輩に教室の前まで送ってもらい、既に授業が始まっている教室のドアをそっと開けた瞬間、未空は待ち構えていたかのようにガバッと俺に抱き付いて離れてくれなかった。
耳元での悲鳴と文句はまだ許容範囲内だが、授業に遅刻した身としてはこれ以上の授業妨害はしなくないからせめて自分の席に座らせて欲しいんだけどな。



「いい加減にしろ」



そんな未空の頭を紀田先生が教科書の角でコツンと叩くと、未空は「いったーい!」と大袈裟に騒いで俺に頭を撫でるように要求して来た。



「リカ、紀田ちゃんが虐める!頭痛いよー!」

「よしよし」

「立夏!お前がそう言う態度だから仙堂が調子に乗るんだぞ!」



そんなこと言われても離れてくれないんだから仕方ないじゃん。



「ぷぷっ、紀田ちゃん僻んでんの?自分もリカによしよしされたいからって生徒に八つ当たりするのは良くないよ」

「テメー、言わせて置けば…っ」

「ほお、じゃあ僕から制裁を加えるのは問題ないよな」

「ヒィッ!?み、みっちゃん、どうして…っ」

「どうして?お前が煩くて授業が進まないからに決まってんだろうがぁぁあああ!!」

「ヒィェェ!!ごめんなさーいぃぃ!!」



(みっちゃん)の登場で漸く未空から解放された俺は自分の席に着いてふと黒板を見ると、そこには大きな字で「自習」と書かれていた。
またかと思ったが、紀田先生は珍しく教壇に立っていて、態とらしく咳払いをしてから話し始めた。



「あー…全員揃ったところで改めて体育祭の結果を発表する」



希が歌舞伎の掛け声みたいに「よっ、待ってました!」と言えば、騒がしかった教室内が一気に静まり返った。



「ここにいる大半が知っての通り今年の体育祭は優勝を逃した……が、しかしっ!!身を挺して味方だけでなく敵までも助けた立夏のフェアプレー精神に感銘を受けたクソジジイ共から特別賞をもらうことになったぞテメー等!!」

「「「イエェェェイ!!!」」」



ああ、やっぱり優勝出来なかったか………ん?



特別賞?

しかもフェアプレー精神って何?



「景品は聖学限定のシャーペンだ!」

「「「Boooooo!!!」」」

「って言うのは冗談で、本当はギフトカード10000円分だぁああ!!」

「「「うっしゃぁあああ!!!」」」



金持ちのくせにシャーペンより金がいいんかい。

その感覚がよく分からん。



「景品がギフトカード10000円分って超ラッキーじゃん!」

「確かに実用的ではあるね」

「てか、優勝するより特別賞取る方がムズくね?あれって“感動を与えた者”に贈られるって話じゃん」

「いや、そうでもないらしい。特に規定はないみたいだけど、とりあえず上の目に付くようなことをすればいいって話だぞ」

「去年は借り物競走で公開告白した奴のクラスが取ったらしいからな」

「確かに、感動の基準が微妙…」

「でも今回は立夏くんのお陰で特別賞が貰えたんだよ!助けてくれてありがとう立夏くん!」

「やっぱりリカは凄いよ!天才!可愛い!」



最後の「可愛い」は聞かなかったことにしよう。



「お前等、立夏に感謝しろよ!」



紀田先生の言葉で一層盛り上がりを見せるクラスメイト。
感謝されることは何一つしていないのに「藤岡くん神」とか「ああ、勝利の女神よ」などど拝まれても不気味でしかない。
寧ろリレーをすっぽかしたことを責めるべきではないだろうか。



「立夏、お前のお陰で金一封ゲットだぜ!」

「ポケ○ンみたいに言うな」


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