歪んだ月が愛しくて2



金一封をゲットした紀田先生は陽気なステップで1人1人の席を回って景品のギフトカードを配って行く。



(浮かれてんな…)



「立夏くん、足はもう大丈夫なの?」



俺の足元を見て不安げな表情を浮かべる、葵。



「この通り、もう大丈夫だよ」

「良かった。でも激しい運動はしないでね、足に負担を掛けちゃうから」

「心配性か」

「心配するのは当たり前だよ。それに立夏くんの怪我は僕を庇って出来たものだし…」

「葵が気に病む必要はないよ。てか、格好付けて手出したくせに自分が怪我するとかダサ過ぎるからもうこの話はなしね」



葵の唇に人差し指を当ててそれ以上の反論を防ぐと、葵は頬を紅潮させながら「もう、そうやって誤魔化して…」と苦笑した。
実際大した怪我はしていないが、リレーに出れなかった言い訳と体育祭の翌日から所在不明になった理由を誤魔化すための方便として利用させてもらうことにした。



(葵には申し訳ないけど…)



「立夏」



頼稀に呼ばれて振り返ると、1通の封筒を渡された。



「これは?」

「アゲハさんから預かった」

「アゲハから?何で?」

「見れば分かる」



そう言われて他の人に見えないように手紙の内容を確認すると。



「………了解」



それが手紙の内容に対する俺の答えだった。
すると頼稀は口角を上げて満足そうな表情を見せた。
その様子からして手紙の内容を把握しているのは明らかだった。
手紙には体育祭で“B2”が行ったことが事細かに記されていた。
月と村雨の現在の状態と監禁場所、恐極組の構成員をある場所に売り飛ばしたこと、そして今回の事件にも“鬼”が関与している可能性があること。
ただ“鬼”の関与については確かな証拠はなく、あくまで可能性があると言うことだけ。
今後は聖学にいる“鬼”の特定に力を入れる、か…。
まあ、想定内だな。



「これについては分かった。でも一つだけ、何で三橋が月に協力したのかが分からない。あの2人の接点は?」



俺は未空達に聞こえないように極力小さな声で頼稀に疑問をぶつけた。



「家同士の繋がりは確認出来なかった。学年もクラスも違うから表面上は奴等の接点は何もない。ただ覇王が三橋を尋問したところ体育祭の数日前に知らない男から手紙を渡されて、そこに書かれていた連絡先に電話したところ恐極から今回の犯行を持ち掛けられたそうだ」

「手紙って…」

「ああ、白樺の時と同じ手口だ」

「だとしたら2人に手紙を渡した男は同一人物」

「俺はその男が“鬼”、若しくはその関係者だと睨んでいる」

「その根拠は?」

「最初にお前を襲った新歓の時、恐極が実行犯役に選んだのは“鬼”だった。そこに意図的なものはなかったにしても、その時点で恐極と“鬼”には接点が出来た。しかも実行犯の“鬼”はお前に気絶させられた後何者かに運び出され、その内の数名は恐極に復讐するために再び聖学に侵入し、またもやお前に邪魔されて復讐は失敗に終わり俺達“B2”に身柄を拘束されることになった。そして今回の事件、お前と恐極の因縁を誰よりも知ってるのは?」

「……“鬼”」

「そうだ。今話したことはあくまで俺個人の意見だ。確証はない」

「そこんとこ月は何て言ってんの?」

「知らない番号から電話が掛かって来てお前に復讐しないかと話を持ち掛けられたらしい。その気があるなら協力すると言われたらしいが、その人物が手を貸したことと言えば白樺達に手紙を渡したくらいで白樺と三橋を選んだのは恐極本人だった。だが恐極の復讐心を利用してお前に危害を加えようとしたことは間違いない」

「自分の手は汚さずに、か…」

「ああ。他人の心を意のままに操ることで自分は手を汚さずに目的を達成し、自分が関与した証拠は決して残さない狡猾で計算高い人間だ」



もしその人物が頼稀が言うように“鬼”だとしたら、目的は本当に俺に危害を加えることだったんだろうか。
釈然としない。何故ならキョウのやり方とは少し違う気がするからだ。
俺に危害を加えるためなら奴は直接俺の前に現れるだろう。他人を使って俺を痛め付けるようなやり方を選ぶとは思えない。そんなことしたら奴の楽しみが減ることになる。東都で白夜叉復活説を流して俺を誘き寄せようとした意味がない。
つまり行き着く結論は三つ。
俺に危害を加えることが目的だとしたら今回の黒幕はキョウじゃない、他の誰か。
黒幕がキョウだとしたら目的は俺に危害を加えることじゃない、他の何か。
若しくは根底から間違っているか…。



「因みに恐極の証言は覇王に報告してない。黒幕の存在を匂わせる証言は全てな」

「あくまで主犯は月で突き通すわけね」

「主犯であることに間違いはないからな」



まあ、それが無難だな。
第三者が関与してようが覇王には関係のないことだし、もし本当に今回のことに“鬼”が関与していたら俺の正体に辿り着くのは時間の問題だろう。
まだ彼等と共にいたい俺としては頼稀のファインプレーに頭が上がらなかった。



「でも何で態々手紙?今みたいにこうやって話してくれれば良かったじゃん」

「手紙はアゲハさんからのものだ。つまり“B2”の総意であり今後取り組むべき課題でもある。口頭で説明したのはあくまで俺個人の意見だ。これはアゲハさんとお前にしか話してないから“B2”は関係ない。確証のない仮説の話だからな」

「ふーん…」



俺としてはそっちの話の方が有難いんだけどな。



「まあ、いいや。証拠隠滅宜しく」

「了解」



読み終えた手紙は頼稀に返して捨ててもらう。
証拠が残らないように徹底しなければどこで情報が漏れるか分からないからだ。



「何それ?手紙?」



すると目敏い未空が俺と頼稀の間にグッと顔を近付けてそう言った。



「またラブレターだったりしてな?」

「はぁ!?リカまたなの!?今度はどこの馬の骨が俺のリカに手出そうとしてるわけ!?」

「誤解だよ。別にラブレターとかじゃないから」

「そうやってそいつのこと庇うんだ!俺と言う者がありながら!リカの浮気者ぉおおお!!」



だから何でそうなる。



「あはははっ、未空って毎回パターン一緒だよな!ボキャ貧過ぎてウケるわ!」

「前回もこう言うやり取りあったもんね」

「学習しないだけだろう」



そんな未空の頭に再び教科書が落とされる。



「煩ぇぞ仙堂。立夏に迷惑掛けんなって言ったばかりだろうが」

「うぅっ、リカ痛いよぉ。慰めて…、」

「ちょっと待てコラ。二度も同じ手は使わせねぇぞ。そんなに痛かったなら俺が慰めてやるからこっち来い」

「ドントタッチミー!紀田ちゃんはお呼びじゃないからあっち行っててよ!」

「……上等だ。そこまで言うならお前には夏休みに特別課題を出してやる」

「はぁ!?何それ聞いてないよ!!」

「言ってねぇからな。提出期限は当然始業式まで。少しでも提出期限を過ぎたら俺の教科だけ成績を1にしてやる」

「そんなぁ!!紀田ちゃんの鬼!!鬼畜!!」

「知るか。先公をナメてるからこうなるんだよ」



俺からすればどっちもどっちだと思うんだけど。

未空と同レベルの先公ってどうなの?



そして再び未空は「リカぁ、慰めてよぉ…」と言いながら俺に抱き付いて来るものだから紀田先生が吠えて未空がごねて、最終的にみっちゃんが降臨してこの場を収めるのが新たなC組名物となっていたことを後日クラスメイトから聞かされた。


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