歪んだ月が愛しくて2



「それと、もう一つ連絡事項がある」



ギフトカードを配り終えて教壇に戻った紀田先生が再び話し始める。



「保健医の丸山先生が事故に遭ってな、暫くの間は臨時で別の先生を雇うことになったから一応覚えておけよ」



一応かよ。

まあ、保健室なんて好き好んで行くようなところじゃないから俺には関係ないけど。



「喜べ、臨時の保健医は女だ」



ニヤリと口角を上げる、紀田先生。

多分、本人が一番喜んでる。



しかしクラスメイトの反応は様々だった。
目を輝かせて期待に胸を膨らます生徒が3割、可もなく不可もなくって表情の生徒が6割。残りの1割はあからさまに嫌そうな顔をしていた。
そして意外なことにその1割の中には未空とみっちゃんと頼稀が含まれていた。



「嬉しくないの?」



そう尋ねると真っ先に反応したのはみっちゃんだった。



「はぁ?嬉しい?そんなわけないだろう。何でたかが女如きが来るからって喜ばなきゃいけないわけ?寧ろ気分悪いんだけど」



如きって…。

そこまで言うか。



「みっちゃんって女の人嫌いなの?」

「若い女は煩くて嫌い。あの甲高い声を聞くだけで虫唾が走る」

「邦光の女嫌いは今に始まったことじゃないもんな」

「それに神代会長一筋の邦光くんにとって女の人は天敵なんだよ」

「でも、まだ若い人かどうか分からないのに…」

「あの顔を見れば一目瞭然でしょう?」



そう言ってみっちゃんが指を差した先にいたのは、未だ顔が緩みっぱなしの紀田先生だった。



「確かに…」

「それに尊様にとって邪魔な蝿はいないに越したことないからね」



(ああ、まただ…)



あの日会長に熱を鎮めてもらって以来、会長の話が出る度にどこか居心地の悪さを感じていた。
そこに同情以外の感情はなかったとは言え、後ろめたさを拭い切れない俺にとっては鳩尾に何か詰まったような妙な感覚だった。



「……何?」

「えっ、あー……ううん、何でもない」

「………」



今まで感じたことのない罪悪感が俺の心を蝕んでいく。



「そう言えば未空と頼稀も微妙な顔してたけど、2人も女の人ダメなの?」

「んー…嫌いってわけじゃないよ。でもあんまり接して来なかった人種だから苦手ではあるかも」

「確かに。言われてみたら俺も母さんと哀さん以外の女の人と碌に話したことないかも…」

「……嘘吐け」

「え、別に嘘なんて吐いてないけど?」

「じゃあお前が飼ってる“子猫”の性別は?」



“子猫”と言われて思い浮かぶのは、ただ1人。



(そう言えばアイツも女だったな…)



でもコミュニケーションお化けの未空が女嫌いなのは少し意外だった。
未空の場合、友達の友達のそのまた友達まで全部引っ括めて友達って言いそうなのに。



「そう言う頼稀はどうなんだよ?」

「好きでも嫌いでもねぇよ。ただ俺が引っ掛かってるのは時期的な問題だ」

「前任の先生が事故に遭ったからじゃねぇの?」

「それを鵜呑みに出来るほど俺は無知じゃないんでね」

「……まあ、無知ではないな」



考え出したらキリがないことでも考えなきゃいけないのが頼稀の仕事なんだろうが、紀田先生のあの反応を見る限り“鬼”関係の刺客ではない気がする。
後は文月さんに履歴書でも見せてもらって確認するしかないか。
正直そこまでする必要があるのかと問われたら答えは否だ。
だから俺はそこまでその臨時の先生のことを気にしていなかった。



それよりも…。


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