歪んだ月が愛しくて2
「頼稀、一つ頼みたいことがあるんだけど」
「何だ?」
俺は再び声を潜めて頼稀の耳元で話す。
「葵の友達の入院先を調べて欲しい」
すると頼稀は怪訝そうな表情を見せた。
「……まさか、会う気か?」
「ダメ?」
「理由は?」
「んー…単なる自己満?」
「……お前が気に病む必要はない。あれはお前のせいじゃないんだ」
「別にそんなんじゃないよ。言っただろう、ただの自己満足だって。それに頼稀は俺のせいじゃないって言うけどあれは確実に俺のせいだよ」
「ちがっ」
「違くない。やったのは俺じゃないにしても、俺を誘き寄せるためにやられたのであれば原因は俺にある。だったら俺が頭下げに行くのが筋ってもんだろう」
「そんなことお前がする必要はないっ。被害者とは言え奴等も族の端くれだ。被害の大小は別としてもあれくらいのことで弱音を吐くようならこの世界に相応しくない。個々の強さじゃなく心意気の問題だ。そんな連中にお前が一々頭下げてやる必要はない」
「誰も1人1人に頭下げるなんて言ってねぇよ。てか、頭下げるとは言ったけどただ様子見に行くだけだから。頼稀が言うようにこっちに足突っ込んだ時点で責任は自分にある。自分が弱いのを俺のせいにされたら溜まったもんじゃねぇし、俺はそこまで人間出来てねぇから」
「だったら、」
「でも葵の友達の場合はまた話が違って来るかなって…」
「………」
「だから悪いんだけど、葵の友達のことちょっと調べてくれない?」
「……分かった」
「おお、案外すんなり納得してくれた」
「それでお前の気が済むなら好きにやればいいと思っただけだ。正直、俺は葵のダチだとしても自業自得だと思ってるからどうでも良かったが、お前が奴と会うことで罪悪感を拭えるならそれを利用しない手はないからな」
「はいはい、そう言うことにしといてやるよ」
頼稀の場合、無知じゃないと言うより素直じゃないと言った方が正しい気がする。
そんなことを考えていると、また紀田先生の声が耳に入って来た。
「まあ、お前等の中にはいないと思うが、女が来たからって浮かれてハメ外し過ぎんじゃねぇぞ。万が一、犯罪行為を見つけたその時はテメー等の人生終わったもんと思えよ」
“B2”初代総長様の本気の凄みにクラスメイト達は顔を真っ青にして激しく首を上下に動かす。
その様子からして、少なくともこのクラスの生徒は紀田先生の恐ろしさを十分理解しているようだった。若干数名を除いては。
「連絡は以上だ。後は時間まで適当に自習しとけよ」
そう言って紀田先生が教室を出ようとした時、突然教室のドアが開いた。
ガラッと。
「あ、岩城くんだ」
「仁木も一緒じゃん。何しに来たんだアイツ等?」
「でも岩城くん達って確かGDに入ってたんじゃ…」
教室に入って来たのは、先程絡んで来たGDのメンバーだった。
周囲の反応から察するに、それなりに知名度のある奴だったらしい。
「あ?何の用だお前等?」
紀田先生がGDの登場に険しい表情を見せると、リーダー格っぽい膝カックンくんが口を開いた。
「藤岡立夏さんはいますか?」
教室中に聞こえるように大きな声で俺を呼ぶ、膝カックンくん。
途端、未空と頼稀が席を立って俺の姿を隠すように立ちはだかる。
大袈裟な…と思いきや、汐と遊馬までもが俺の後ろで警戒心を強めていた。
「誰あれ?」
「1年D組の岩城くんだよ。他の6人も名前は分からないけどD組の人だったと思うよ」
「確か岩城ってGDの幹部だから他の6人もその口なんじゃねぇの?」
「アイツ等、今立夏くんの名前出さなかったか?」
「GD如きが立夏くんに何の用だか…」
あれで幹部?
あんなに弱くて大丈夫なのか?