歪んだ月が愛しくて2



教室を飛び出した俺はどこか適当なところで時間を潰そうと手近な空き教室のドアに手を伸ばした直後、ガラッと内側からドアが開かれた。
そこから現れた人物に俺は再び頭を抱えることとなる。



「やあ、久しぶりですね」

「………」



今日は厄日か。

何でこう言う時に限って次から次へと面倒な人に絡まれるんだろう。



「……お久しぶりです、先輩方」



口元を引き攣らせて関わりたくないオーラ全開の俺に、目の前の桂木先輩は含みのある笑みを浮かべた。



「暫く見掛けませんでしたが、元気そうで何よりです。ところでこの時間にここにいると言うことはサボりですか?曲がりなりにも貴方は生徒会役員なんですからくれぐれも尊様の顔に泥を塗るような真似はしないで下さいね」

「相変わらずですね、アンタも…」

「ありがとうございます」



(褒めてねぇよ…)



そんな不満げな視線を送ると、桂木先輩の後ろに立つ我妻先輩と目が合った。
この人の無口で無愛想なところも相変わらず健在のようだ。
特に話すこともないから適当に会釈して関わらないようにしよう。



「……ところで風の噂で聞いたのですが、体育祭の日は色々と大変だったようですね」

「、」



予想外の発言に、ピクッと眉が動いた。



「……何のことですか?」

「惚けなくていいですよ。こう見えても私は覇王親衛隊の総隊長ですからね。学園内で可笑しなことがあればすぐ私の耳に入るようになっているんですよ」

「………」

「あれ?もしかしてその件には箝口令が敷かれているのですか?でしたら私に告げ口して来た子の口を封じなければ大変ですね。吾郎、すぐに手配を」

「分かった」

「ああ、それと勘違いしないで欲しいのですが、私はその件に関して詳細な内容を把握しているわけではありませんよ。私に告げ口して来た子も尊様が貴方を抱えて学生棟に入ったとしか言っていませんでしたから」

「っ、あ、あれは別にそんなんじゃ…!?」

「そんなの…、とは?」

「、」



ニコニコと無害そうな笑顔を貼り付けてるくせにちゃっかりと圧を掛けて来る桂木先輩は、俺の苦し紛れの言い訳なんぞに耳を貸してはくれなかった。
含みのある笑顔が「早くゲロって楽になれ」と言わんばかりの圧力を掛けて来る。



いや、だからって言わないよ。てか言えねぇわ。

アンタに告げ口した奴が見たのは会長にお持ち帰りされた現場です、なんて口が裂けても言えない。



「………体育祭の日は、ちょっと裏で色々とありまして…。それで怪我して動けなくなった俺を会長が寮まで連れてってくれただけなんです…」



嘘ではない。
色々あったのも本当だし、動けなかったってのも本当だ。
でもこんな説明で納得してくれるとは思えないし、会長命の桂木先輩がそう易々と引き下がってくれるとも思えなかった。
ああ、こんなことになるなら適当に挨拶だけして早々に引き返せば良かった。
そう思ったのも束の間、桂木先輩は「そうですか」と呆気なく納得した。



……は?




「それは災難でしたね。怪我の具合はどうですか?」

「もう、大丈夫です、けど…」

「それは良かったですね」



いやいやいや、何納得してんの?

そうですかって、それ絶対本心じゃないでしょう?

絶対納得してないよね?

てか、自分でも思うけど、あんな説明じゃ誰だって納得出来ないから。



(この人、一体何を考えてんだ…?)



初対面の時にも感じたが、俺には桂木先輩が何を考えているのか分からなかった。


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