歪んだ月が愛しくて2
「白は相変わらず元気だな」
「にゃー」
「あれ?少し見ない間に大きくなった?」
「にゃあ」
芝生の上で胡坐をかくと、白が俺の足の間に入って来た。
「そ、そこっ!?」
俺の足の間でくるくると回る白は満足すると身体を丸めて落ち着いてしまった。
「え、そこで寝るの?」
「猫は狭い場所を好むからな」
「へー、そうなんだ…」
流石、猫使い。
猫のことなら何でも知っているようだ。
「この間も思ったが、お前猫に慣れてないだろう?」
「猫だけじゃなくて動物全般慣れてないよ。白と会ったのはこれで三回目だけど、それまで動物には触ったことなかったからね」
「その割には随分と好かれてるな」
「白限定ってことじゃない?」
瑞樹が俺の足の間にいる白に手を伸ばすと、白は躊躇うことなく瑞樹の手をぺろりと舐めた。
それを合図に瑞樹が喉元を擽るように指を動かすと、白は気持ち良さげに頭を預けた。
「白、嬉しそう…」
「お前も触ってみろ」
「えっ、いや俺は…」
「お前もコイツのことが好きなら触ってやれ」
「そ、れは…、ズルくない?」
そんな風に言われたら触るしかないじゃん。
恐る恐る、そっと手を伸ばす。
「急に頭を触ろうとすると驚くからな。下から手を出せ」
「し、下からね」
瑞樹の言うように下から手を出せば、白はクンクンと臭いを嗅いだ後、ぺろぺろと俺の指や掌を舐めた。
「うおっ」
舌の濡れた感触に驚けば、瑞樹は耐え切れないと言わんばかりに肩を震わせた。
「わ、笑うことないじゃんっ」
「悪い。ただあまりにも驚いてるから面白くてな」
「し、仕方ないだろう、本当に慣れてないんだから…」
「そうみたいだな」
俺の手に擦り寄る白の毛の感触につい探るようにぎこちなく触ってしまうと、見兼ねた瑞樹が俺の手を取ってアドバイスしてくれた。
「大概、猫は喉元や耳の後ろを撫でられるのが好きだから、そこを重点的に触ってやれ」
「わ、分かった」
瑞樹に教えてもらった場所を指示通り触ってみると、白は気持ちよさそうに頭を預けて来た。
「……やっぱり、瑞樹って猫使いだな」
「猫使い?そう言えば初めて会った時もそんなことを言ってたな」
「猫の気持ちが理解出来る人ってことだよ」
「全てを理解しているわけじゃない。ただお前より猫の扱いに慣れてるだけだ」
「瑞樹は猫が好きなの?」
「……犬よりは」
今度は耳の後ろで指を動かし喉同様に刺激を与えると、白はよじよじと俺の膝の上に登って来た。
白は寝惚けているのか、上手くバランスを取ることが出来ずころんと後ろにひっくり返ってしまう。
そんな間抜けな姿に笑みを浮かべた瑞樹が白を抱き上げると、白はお礼を言うように顔を近付けて瑞樹の鼻をぺろりと舐めた。
「……擽ったい」
口ではそう言っても何だかんだ嬉しそうな瑞樹の顔を見て思わず笑ってしまう。
それに気付いた瑞樹が不機嫌そうに「……何だよ」と言って俺を威嚇する。
「別に。ただ瑞樹って優しいなと思って」
「優しい?俺が?」
怪訝そうに眉を顰める、瑞樹。
本人に自覚はないようだが、白と接している時の瑞樹はとても穏やかで初対面の時に感じた冷たいオーラは微塵も感じさせない。
それだけで瑞樹が白を大切に思っていることは十分に伝わって来るし、擽ったいと言いながらも白の好きなようにさせてあげる瑞樹の不器用な優しさが心地良かった。
瑞樹のそう言うところが会長と重なる。
会長も人一倍不器用だけど、何だかんだ言って優しい人だから…。
そう言えば、初めて猫の扱い方を教えてくれたのは会長だったな。