歪んだ月が愛しくて2
「俺は、優しくなどない…」
その声は暗く、重く感じた。
まるで「俺の何を知っているんだ」と責められているようだった。
瑞樹と会ったのは今日を含めてたったの2回。
それだけで瑞樹がどう言う人間かを判断するのは難しいし、瑞樹のような警戒心バリバリの人間はそう簡単に心を開いてくれないだろう。
でもたった2回分しか言葉を交わしたことはなくても、白を大切にする瑞樹を見ていれば何も迷うことはなかった。
「自分以外のものを気遣える人間が優しくないわけないよ」
「、」
「少なくとも俺は白を大切にしている瑞樹が優しくないとは思えない」
「………」
瑞樹の瞳に見つめられると、妙なざわめきを覚える。
紅と蒼のオッドアイ。
気を抜いたら最後、その瞳に囚われて抜け出せなくなる。
「……お前は、俺と目を逸らさないんだな」
「何で逸らさなきゃいけないの?」
「大抵の人間は俺と目を合わそうとしない。この瞳は奇怪の象徴だからな」
「………」
「俺とコイツは似てるんだ…」
そう言って瑞樹は自身の腕の中にいる白を見つめる。
(似ている、か…)
瑞樹と白のオッドアイはよく似ている。
一見同じ色に見える瞳を“同じ”と言わず“似ている”と言った瑞樹に既視感を覚える。
かつての俺の姿を見て“化け物”と呼んだ者がいた。
この世に生を受けた瞬間からオッドアイだった彼等とは違い、俺の場合は突然変異し、そしてまた元の姿に戻った。
彼等の瞳が奇怪の象徴であるなら、俺は存在そのものが奇怪だった。
その俺が彼等から目を逸らせるわけがない。
「俺、アカが嫌いなんだ」
「、」
途端、瑞樹の眉間に深い皺が刻まれる。
「本当のこと言うとさ、白と初めて会った時、白の両目がアカだと思って直視出来なかったんだ。結果的に白を助けたみたいになってるけど、本当は怖くて動けなかっただけ…、格好悪いよな?」
「………」
そっと白に手を伸ばすと、白は自らの頭を俺の手に擦り付けてゴロゴロと喉を鳴らした。
「でもアカだけじゃなかった。この深い蒼に、俺は救われたんだ…」
ゆっくりと、白から瑞樹へと視線を移す。
「綺麗だよ」
目を逸らさないんじゃない、逸らせないんだ。
紅でもあり、蒼でもあるその瞳があまりにも綺麗で吸い込まれそうになる。
その瞳と彼特有の低い声で命令されたらどんな無謀なことでも従ってしまうだろう。
暗闇の中でもその輝きを見失わずにいられるオッドアイは、夜に生きる者達にとっての道標のようだと思わずにはいられなかった。
紅だけじゃダメ。
蒼だけでも成り立たない。
その双眸を持ってして、初めて彼は“瑞樹”となるのだから。
「だから、もう二度と、自分のことを“奇怪の象徴”なんて言うなよ」
「お、まえ…」
驚いたように目を見開く、瑞樹。
その綺麗な瞳に映るのは黒髪にグレーの瞳の本来の俺。
(もう、あの色じゃない…)
既視感の正体はこれだった。
自分を“奇怪の象徴”と蔑む瑞樹に、俺はかつての自分を重ねていた。