歪んだ月が愛しくて2
「それより瑞樹って体育祭に出てた?見掛けなかったけど」
「あ、いや……、出てないが…」
「サボり?」
「……お前も、最後はいなかったな」
「え、気付いてたの?」
「お前は何やっても目立つからな」
「そう?」
「あれだけ騎馬戦で派手に倒れてたら嫌でも目立つだろう。しかもあんな目立つ格好までして…」
「確かに」
てか、見てたんだ。
見てたのに参加しなかったってどう言うこと?
「……足は、平気か?」
「え?」
もしかして騎馬戦で足を捻ったことを言っているのだろうか。
そんなところまで見られていたことに若干の恥ずかしさが込み上げる。
「だ、大丈夫…。もう治ったから」
「そうか」
何も興味ありませんみたいな顔してるくせに、何だかんだ言って周りをちゃんと見てるんだな。
口下手で不器用で、そのくせ冷静に周囲を観察するところが益々会長と被って見えてしまう。
瑞樹も会長同様に上に立つ者の素質があるように思えた。
「にゃっ」
「痛っ、」
瑞樹の腕の中にいた白が俺の足の上に着地すると、ピリッとした痛みが太腿に走った。
着地した時、制服の薄い生地を白の爪が貫通したようだ。
「大丈夫か?」
「平気だよ、ちょっとびっくりしただけだから」
「暫く爪を切っていなかったから着地した時足に爪が刺さったんだろう。寮に戻ったら消毒した方がいい」
「いいよこのくらい。唾付けとけばそのうち治るって」
「傷は治ったとしても傷口に雑菌が入ったら意味がない。他の野良猫よりは手入れをしているが放し飼いである以上油断するな」
真剣な表情で諭す瑞樹に自然と口角が緩む。
「お前、また…」
「だってやっぱり優しいんだもん瑞樹って」
「、」
途端、瑞樹は金縛りにでもあったかのように動かなくなってしまった。
酷く驚いたように、何かを耐えているかのように、瑞樹は俺の顔を凝視したまま身悶えるほどの羞恥に襲われていた。
余程優しい発言が気に食わなかったのか、俺を見つめる瑞樹の頬が徐々に紅潮していく。
「にゃあ…」
不意に先程より落ち着いた様子で俺の足に擦り寄って来た白の鳴き声によって俺の視線が瑞樹から逸れる。
「……もしかして心配してくれてんの?大丈夫だよ白、こんなの全然痛くないから」
「にゃー」
白の扱いも随分慣れた気がする。
猫使い直々に伝授されたお陰でもう怖いものなしかもしれない。
「……保健室、行って来い」
「あいあい」
「絶対行けよ」
「んー…どうしても?」
「どうしてもだ」
仕方ない。
瑞樹にそこまで言われたら行くしかないか。
未空やGDのメンバーもそろそろ諦めてくれた頃だろうし。
「じゃあな白」
「にゃあ」
「……また、来い」
その言葉に耳を疑った。
「……いいの?」
「お前が来ると白が喜ぶ」
「瑞樹は?」
「………退屈はしない」
「何それ。そこは嘘でも俺に会いたいって言うところじゃないの?」
「いいから早く行け」
決まりが悪そうにそっぽを向く、瑞樹。
少し揶揄い過ぎたかなと反省し、コホンと咳払いをした後に込み上げる笑みを誤魔化した。
「じゃあね、瑞樹」
「ああ」
「あ、それと俺の名前は“お前”じゃなくて“藤岡立夏”だから」
それだけ言い残して、俺は瑞樹と白に背を向けて歩き出した。
「“藤岡立夏”、だと…?」
だから、俺は気付かなかった。
俺の後ろ姿を見送る瑞樹の瞳が激しく動揺していたことに。