歪んだ月が愛しくて2
大嫌いなあの色と、薬品の臭い。
病院も、保健室も、出来ることなら行きたくない。
でも優しい瑞樹がどうしてもと言うから仕方なく保健室に行こうとした矢先、それは突然俺の目の前に現れた。
「あ、藤岡さん!良かった、やっと見つけた!」
(まだ諦めてなかったのかよ…)
北棟の廊下で遭遇したのは、舎弟希望の膝カックンくんだった。
確か名前は岩城くんだっけ?
この場にいるのが彼だけと言うことは、他の6人は諦めてくれたのだろうか。
「アイツ等と手分けして張ってた甲斐がありました」
……うん。
そう都合良くはいかないよね。
「……何でここにいるわけ?」
「藤岡さんが帰って来るのを待ってました!」
「いや、それは何となく分かるけど」
俺が聞いてんのはそう言うことじゃないんだけどな。
察しが悪いのか、ただすっとぼけてるだけか…、そんなことを考えていると突然目の前にいる岩城くんが人気のない廊下で頭を下げ出した。
「藤岡さん、俺を弟子にして下さい!」
バカみたいにでかい声を張り上げる岩城くんには申し訳ないが、何度頭を下げられても答えは一緒だった。
「嫌だ」
バッと顔を上げた岩城が酷く傷付いたような顔を見せる。
そんな顔されたらこっちが悪いことしたみたいで居心地が悪い。
「な、何でですか!?俺パシリでも靴磨きでも何でもやります!」
「いらない」
「パシリがダメなら下僕でも構いません!」
「そう言う問題じゃない」
「じゃあどんな問題ですか!?理由を教えて下さい!」
「………」
一歩も引かない岩城くんに無意識に溜息が漏れる。
と同時に俺は腹の底から込み上げて来る笑いを堪えるのに必死だった。
俺は彼のことを覚えている。
いや、思い出した。
「お前、前に会長に喧嘩売って返り討ちにされてたよな?そんで逃げる時に俺に殴り掛かろうとした奴。違う?」
「、」
その反応。
やっぱり彼も覚えていたか。
「別に根に持ってるわけじゃねぇよ。寧ろさっきまで岩城くんのこと忘れてたし」
「じゃ、どうして…」
「どうして?大切な義弟を悪く言う奴と仲良くしたいわけねぇだろう」
「っ、それは…」
「確かにカナの話を持ち出したのはお前じゃない。でもあの場にいたお前はアイツ等を制止するどころかそれすらも俺を煽る材料にした。違うか?」
「ちがっ、いません…」
「そんな連中と好き好んで仲良くしたいと思うか普通?」
「………いいえ」
「分かったらもう二度と俺の前に現れるな」
そう言って岩城くんに背を向けて歩き出す。