歪んだ月が愛しくて2
「おい、それは何だ?」
ビクッと、会長の低い声にバカみたいに動揺した。
会長の鋭い視線の先には、俺同様この状況を把握出来ずに呆然と立ち竦む岩城くんがいた。
「何って…」
「それは必要か?」
そう言って会長が指を差したのは、俺の手。
正確には岩城くんの手首を掴む俺の手を指差していた。
「あ、ごめん」
「い、いえ…」
チッと、会長の舌打ちが聞こえる。
会長が明らかに不機嫌なのは分かる。
でも舌打ちしてやりたいのは俺の方だった。
「あれ、お前さっき中庭で…」
不意に陽嗣先輩が岩城くんの存在に気付いた。
岩城くんの顔を至近距離から見つめる陽嗣先輩は彼が先程俺に喧嘩を売って来たGDの1人だと分かると、今度は俺の目を見て「何で?」と尋ねて来た。
「……成り行きです」
「どうしたらあの流れで手繋いで保健室に来るような流れになってるわけ?」
「和解したんですよ」
「はぁ?和解って…」
「俺は兄貴のしゃ…「余計なこと言うな」
この場で「兄貴の舎弟になりました」なんて言われたら溜まったものじゃない。
てか、少しは空気読もうよ。
どう考えてもこの場でするような話じゃないから。
「どう言うことだ?」
ああ、ここにもいたか空気の読めない奴が。
イライラする。
どう言うことだと?
ハッ、それはこっちの台詞だ。
機嫌が悪いことを隠そうともせず、会長の黒曜石が俺を責めるような鋭い視線を浴びせて来る。
何で俺が責められなければいけないのだろうか。
確かに今朝は白樺のことで好き勝手やって怒らせてしまったかもしれないが、この状況に対して何の弁明もせず逆ギレする会長に怒りをぶつけてやりたいのは俺の方だ。
でも会長の怒りを鎮めようと自身の胸を押し付けながら腕を絡める彼女の姿をまざまざと見せつけられたら、そんな気持ちは一瞬で消え失せた。
体育祭でのことをいつまでも消化しきれず、会長と顔を合わせてもどう対応したらいいかと悩む俺とは違い、何事もなかったかのように平然としている会長にとっては、あんなことは取るに足りない些細な出来事だったのだろう。
忘れてと言ったのは俺だ。
忘れてくれなきゃ困る。
あんなこと、全て忘れてなかったことにしたかった。
それなのに…。
(……何か、変だ)
ジクジクとした胸の痛みに堪えるように、震えそうになる唇をキツく噛み締めた。