歪んだ月が愛しくて2



未空を見つけたのは学生棟の廊下だった。
それも奇妙なことに何度も何度も俺の部屋のドアを叩いているではないか。



ガン、ガンッと。

切羽詰まったように強く、激しく。





「………」





ねぇ、未空。

今、どんな気持ちでそのドアを叩いているの?





そっと未空の後ろから近付いて、ドアを叩く手の上から自分の手を重ねた。





「っ、」





反射的に振り返る、未空。

その瞳の輪郭が赤く擦れて痛々しかった。





「リ、カ…」





俺を見つめる、広大な空。



その瞳に見え隠れする感情は一体なんだろうか。

何でそんなにも縋るような瞳をしているのだろうか。





……分からない。

ただこうなった原因は間違いなく彼女の存在だった。





彼女の何かが未空の蓋を抉じ開けた。

彼女の何かが未空にとてつもないものを植え付けた。





何も知らない俺が善悪の判断を付けることは出来ない。





でもムカついた。

正直、現在進行形でムカついている。

彼女だけじゃなく、あの3人にも。

誰よりも未空の近くにいる彼等が未空と彼女の確執を知らないわけがない。

それなのにあの3人は未空と彼女を引き離そうともせずにただ傍観していた。

俺はそれが許せない。

だから彼等には未空を追わせなかった。

今の未空には近付いて欲しくなかった。





何が“仲間は守る存在”だ。

全然守れてないじゃないか。





悔しくて、情けなくて。





未空の手をギュッと握る。



未空の心を守れるのは彼等だけのはずなのに…。





「リカ…?」





不安げに揺れる空色をこれ以上不安にさせてはいけない。





………決めた。





「何が食べたい?」

「え、」

「今なら未空が好きなもの何でも作ってあげる」

「リカが…、作ってくれるの?俺のために…?」

「うん。でもあんまり期待しないでね」

「っ、お、俺…、カレーが食べたいっ!」

「カレーね、了解」





俺は未空の手を引いて自分の部屋に招き入れた。





ガチャと鍵を掛けたのは、誰であってもこれ以上先には踏み込ませないためだった。


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