歪んだ月が愛しくて2
頼稀Side
はぁ…、面倒臭ぇ。
「風魔っ、そこを退け!」
「退いたら2人の後を追うでしょう。だったら退くわけにはいきませんね」
「風魔くん、ふざけるのもいい加減にして下さい!今追わなければ未空は…っ」
「立夏が追ったから大丈夫でしょう」
「りっちゃんにはまだ未空のこと話してねぇんだよ!何も知らないりっちゃんに一体何が出来るって言うんだよ!?」
「さあ?それは立夏次第じゃないですか?」
未空を追って立夏が出て行った後、俺は汐と遊馬に希達を任せて保健室に残った。
保健室に残った理由はただ一つ、未空と立夏の後を追う覇王を足止めするためだった。
(立夏の奴、面倒なもん押し付けやがって…)
「無責任なこと言ってんじゃねぇよ!オメーにとっちゃどうでもいいことかもしれねぇが、俺達にとって未空は…っ」
「―――“仲間”って、言いたいわけ?」
「、」
「ハッ、まさかアンタの口からそれを聞くとは思わなかったわ」
いつまで経っても立夏を受け入れられない臆病者が何語ってんだか。
頭ん中お花畑かよ。
そんなことを考えていると、真正面から腕が伸びて来た。
「もう一度言う。そこを退け」
鋭利な刃物のように鋭い瞳が至近距離から俺を睨み付ける。
……怒ってんな。
でも立夏はその何倍もキレてるはずだ。
そうじゃなきゃ覇王である未空を彼等から引き離そうとはしない。
「……今のアンタ達に、未空を追う資格があるんですか?」
「あ?」
「何で立夏が1人で未空を追ったと思います?付き合いの長いアンタ達に任せて置けばいいものを、それを押し除けてまで1人で未空を追ったのは何でだと思います?正解は、―――アンタ等みたいな腑抜け共に今の未空は任せられないと思ったからだよ」
「、」
「何ですかこのザマは?アンタ等3人が付いていながら仲間1人も碌に守れないんですか?そんなんだから立夏に見限られるんですよ、情けない」
「………」
「それに後を追ってどうするつもり?逃げる未空を無理矢理引き止めて謝って慰めてやってはい終わり?それで未空の気が晴れると本気で思ってんの?」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ…」
「だから立夏に任せとけって言ってんだよ。アイツならアンタ達が心配してるようなことにはならねぇよ」
「ハッ、スゲー自信だな」
「自信?確信に決まってんだろう」
「………」
ゆっくりと、俺の胸倉を掴む神代会長の手が解かれていく。
「………分かりました。未空のことは立夏くんに任せましょう」
「おい、九澄っ!?」
「先程は取り乱しましたが、冷静になって考えてみれば立夏くんほどの適任者はいませんよ。それに何も知らないからこそ気が休まるかもしれませんし…」
「それは、そうかもだけどよ…」
「尊も…、その手を解いたと言うことは納得したみたいですしね」
「……ああ」
(口ではそう言うものの顔は全然納得してないけどな…)
神代会長が立夏を行かせたくなかったのは、何も未空を心配してのことだけじゃない。
他の2人に比べて遥かに立夏を信頼している神代会長なら自分にとって大切な存在を立夏に預けることに何の抵抗もないだろう。そこに厄介な感情さえなければ。
立夏も何でこう面倒な奴等に好かれるかな。
アゲハさんみたいな信者や理事長の秘書みたいな家族愛や高屋みたいな友愛ならまだしも、ガチの恋愛感情ほど厄介なものはない。
そう言う目で立夏を見るなとは言わない。
ただ、それで立夏が苦しむことになるなら話は別だ。
厄介な感情のせいで余計な蓋まで開けられたら堪ったものじゃない。