歪んだ月が愛しくて2



立夏Side





「……いい匂い」



バスルームから出て来た未空はタオルで頭を拭きながら小さく呟いた。



「もっとゆっくり入ってくればいいのに…」

「十分あったまったよ、お風呂ありがとうね。俺、柚子の香りのお風呂って初めて入った」

「ならいいけど」



夕飯を作っている間、未空には先に風呂に入ってもらった。
湯船にお湯を張って柚子の入浴剤を入れて置いたから、未空の身体から仄かに柚子の香りが漂う。
リラックスしたい時にはラベンダーの香りがいいと聞いたことがあったので試してみようと思ったのだが、生憎ラベンダーの入浴剤は持っていなかったので柚子で代用した。
因みに未空には俺の部屋着を着てもらった。
未空は俺より少し身長が高いくらいだから俺の半袖半ズボンなら問題なく着れるようだ。
俺も制服を汚したくなかったので、未空と色違いの黒の半袖半ズボンの部屋着に着替えてから料理を作っていた。勿論、エプロンも忘れずに。



「それより」



未空はタオルを肩に掛けたままキッチンに入って来た。
俺の後ろから顔を出して鍋の中を覗き込むと、未空は目を輝かせながら「美味そうっ!!」と俺の耳元で叫んだ。



「んー!いい匂い!これ絶対美味しい奴じゃん!」

「美味しいかどうかはともかく、結構な量作っちゃったから残ったら明日の朝もカレーね」

「大歓迎だよ!俺カレーなら何杯でもいけちゃうから!」

「喜ぶのは味見してからにしてよ」



小皿に一口分のカレーを入れて未空に渡す。



「…っ、美味しい!もっと食べたい!おかわり!」

「ダーメ。これ以上食べたら夕飯が入らないだろう」

「えぇ、俺もうお腹ペコペコ…」

「夕飯は髪乾かした後ね」

「髪?もう乾いてるけど…」

「それは生乾きって言うんだよ。ソファーで待ってて、今ドライヤー持って来るから」



パチンと、ガスを切ってエプロンを外す。



「え、そこまでしなくても自然に乾くからいいよ」

「ドライヤー嫌い?」

「いや、嫌いとかじゃなくて面倒臭いから…」

「……未空は、俺にドライヤーされたくないの?」

「えっ!?」

「俺、今日は未空のことメチャクチャ甘やかしたい気分なんだけど…。未空は俺に甘えたくない?」

「っ、あっ、あ…甘えたいっ!俺、リカにドライヤーして欲しい!」



見えるはずのない尻尾をブンブンと振る、未空。

こう言う分かり易い反応をしてくれる未空を見ると、少しずついつもの未空に戻ってくれているみたいで安心する。



「じゃあソファーに座って良い子で待ってな」

「っ、」



決めたんだ。

今日は目一杯未空を甘やかすって。


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