歪んだ月が愛しくて2



ドライヤーから吹く温かい風が未空の髪を靡かせる。

なるべく優しく、丁寧に、未空の髪を指で掬う。



「未空の髪って柔らかいね」

「そ、そうかなっ」

「何か付けてる?良い匂いがする…」

「た、多分、入浴剤の香りだと思うよっ」

「………何か、ぎこちないけど大丈夫?どうしたの?」

「そっ、そそうかな!あーっはははっ!」



ぎこちない、と言うか不自然?
俺が未空の髪に触れたり、未空の首元に鼻を近付けたりする度に、未空の身体がロボットみたいな動きをする。
やっぱりこの歳になってまで他人に髪乾かしてもらうのは恥ずかしいのだろうか。
それとも男の俺に触られるのが気持ち悪いとか………いや、でも嫌がってる感じではないんだよな。寧ろいつも抱き付いて来るのは未空の方だし。



カチッと、一度ドライヤーを切った。



「未空、もっと俺に体重掛けていいよ」



俺はソファーの上から髪を乾かし、未空には俺の足の間に座ってもらっていた。



「あー…でもそれ以上近付くとリカの足が…」

「足?まさか足臭かった?」

「いや、そっちじゃないから!全然臭くないよ!寧ろすべすべで気持ちいいと言うか…っ。あ、でも安心してね!別に変ことは考えてないから!本当はその白い太腿に噛み跡付けたいとか一日中頬擦りしていたいとか挟まれたいとか全然思ってないからね!」

「この変態め」



そう吐き捨てると、未空はガーンと効果音を口に出して項垂れた。
甘やかすとは言ったが、変態行為を見逃すとは言ってない。
しかし開き直る未空は「変態じゃないもん、リカのことが大好きなだけだもん…」と不貞腐れながら俺に身体を預けて大人しくなった。
初めから素直にそうしとけばいいのに…、と思いながらドライヤーを再開した。



「……ねぇ、リカ」

「ん?」



未空の落ち着いた声が俺の名前を呼ぶ。
先程とは打って変わり、未空は憂いた眼差しで天井を仰ぎ見ていた。



その表情が珍しくて、少し喉の奥が引っ張られた。



「リカは、誰が一番好き?」



その唐突な質問に思わず言葉を詰まらせた。



「………は、」



遅れて出た言葉が未空の質問に対する答えじゃないのは分かっている。



「あれ、聞こえなかった?あのね、リカは誰が…」

「いや、それは聞こえたから」



でも質問の意図が分からなかった。



「何、急に…」



ドライヤーの電源を切ると、嫌な静けさが室内を覆う。

このタイミングで電源を切ったのは失敗だったな。



「急にじゃないよ。リカを生徒会に誘った時からずっと気になってたんだ」



未空の顔色は窺えない。
でも淡々とした口調の中に見え隠れする強張った声に、キリッと心臓が引き攣った。



「それにほら前に話してくれたじゃん、初恋の人の話。まだその人のことが好きなの?」

「あ、あー…あれは…」

「チサさんでしょう、リカの初恋の人って」

「、」



首だけを動かして俺と目を合わせる、未空。
ニヒルに口角を上げたその表情に思わず言葉を失った。



その瞬間、室内の空気が凍った。
でも肺まで凍りそうなこの空気に心臓がバクバク言っているのはどうやら俺だけのようで、問題発言をした張本人は俺の目を見つめたまま答えを待っているようだった。
いや、待たれても困る。
そんな答え難い質問されたら一生答えられそうにない。


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